ウサギ穴 2/2

(前編)ウサギ穴 1/2

 

友達が数えるメーター表示の、

速度がおかしい。

 

「じゅうさん、・・・じゅうよん。じゅう・・・、

ああ、もう早いよ、ちょっと待って!」

 

ものすごい速さで、

巻き尺を回す取っ手が回転して、

しゅごおおお、と音がしていた。

 

僕は友達と顔を見合わせた。

「うわ」と友達が叫んだ。

 

その手から巻き尺が離れて、

穴の縁にぶつかった。

 

巻き尺は穴より大きかったので、

持っていかれることは無かったけど、

一度二度、ビクンビクンとのたうってから、

巻き尺は力尽きた様に、

その場に崩れ落ちた。

 

呆気にとられるという言葉があるけれど、

僕はそれまでの人生で、たぶん初めてだった。

 

本当に呆気にとられたのは。

 

友達は無言のうちに、

再び手にした巻き尺を、

巻き戻していた。

 

そのうち「うがにゃああ!」と、

猫の様な情けない悲鳴が聞こえた。

 

そうして、しばらくもしないうちに、

県道側の穴でスタンバってた

友達数人が走って来て、

一人は足が絡まってこけて転がっていった。

 

僕の横を・・・。

 

もう一人降りてきた奴の服の袖を掴んで、

僕は訊いた。

 

「チャーボーは!?」

 

「知らん!放せ!」

 

「話せば放す」

 

「だあもう!穴がものすごい勢いで、

骨吹いた!」

 

それだけ言うと、

そいつは校舎に向かって

駆け降りて行った。

 

何が何だかわからなかった僕は、

とりあえず巻き尺の友達と一緒に、

県道側の穴まで行ってみた。

 

確かにそこには、

何らかの動物の骨が穴を起点に、

放射状に散らばっていた。

 

小動物の骨だろうか。

何もこびりついていない。

 

白くて綺麗な、

百点満点文句なしの骨だった。

 

チャーボーのかなと僕は思った。

それなら悪いことをしたなあとも思った。

 

その日は当然、先生に怒られたけれど、

僕はいつもと違って幾分本気で謝った。

 

「ごめんなさい。もうしません」

 

もちろん、チャーボーに対して。

 

後日、僕は山に住んでいるじじいを訪ねて、

その話をした。

 

もちろん孫へのこづかいが

目当てだったのだけれど、

じじいなら何か知っているかも、

と思ったのだ。

 

「そりゃ、ヤマノクチやの」

と、じじいは言った。

 

「やまのくち、って何や?」

 

「おまんの口と一緒や。山の、口」

 

じじいはそう言って、

僕の下唇を掴んでびろんと伸ばす。

 

口と聞いて、想像力豊かな僕は、

すぐにピンと来た。

 

「じゃあ、もう一つの穴は、ケツなん?」

 

「ケツやな。ヤマノシリ」

 

僕は気付いた。

 

だとしたら、チャーボーは

山に食われたのだ。

 

「なあなあ、じじい」

 

「なん?」

 

「ウサギってよ、美味いん?」

 

「うまい。くいたいんか?」

 

僕は首を振る。

 

それにしても、山だとしても

『いただきます』くらいは言うべきだろうと、

その時の僕が思ったのかどうかは、

定かではない。

 

黙っていると、じじいは僕の肩を

バシバシと何度も叩いた。

 

「まあ、気にせんでええ。

おまんは山にお供えもんをしただけや。

そのうちええことがあるかもしれん」

 

「じじい・・・」

 

「おう、なんぞ?」

 

「じゃあ、こづかいくれ」

 

その日はじじいの家の軒先に

干してあった干し芋を勝手に取って、

かじりながら家まで帰った。

 

じじいは結局、

こづかいをくれなかった。

 

けれど、そのうち良いことがあると

言うじじいの話は、

当たってなくもなかった。

 

僕は飼育委員をクビになった。

 

理由は、皆で飼っていたウサギを、

うっかり『逃がしてしまった』からだと言う。

 

世話は面倒くさいし、

ウサギ小屋は臭いから、

僕は普通にラッキーと思った。

 

ちなみに『ウサギ穴』は、

あの出来事以来、

子供たちの間で『ウサギ喰いの穴』に、

グレードアップした。

 

そうしてあの日、県道側から走って逃げて

転がった奴がえらい怪我を負ったので、

それから裏山禁止の規制が厳しくなった。

 

だから、一度だけだ。

 

下校時間になって、

僕はそっと県道側の穴に向かった。

 

途中で、落ちていた手頃な木の枝を拾う。

そして穴に着く。

 

「くらえ!」

 

僕は手にした棒を、穴に突っ込んだ。

そして逃げた。

 

男の子なら誰しもやったことのある、

あのワザだ。

 

ささやかな仕返しのつもりだった。

 

その後、山に仕返しされたとか、

そんな体験はない。

 

今現在、僕の通っていた小学校は、

廃校になっている。

 

じじいの家に行く際には、

あの県道を通るので、その時はついでに

穴はあるかと確認したりする。

 

少なくとも、ヤマノシリは未だにある。

 

周りには何の骨かわからない、

小さな骨が散らばっていたりもする。

 

(終)

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2 Responses to “ウサギ穴 2/2”

  1. より:

    ウサギって鳴き声出さない生き物だから、創作クサイ

  2. 匿名 より:

    山より何より何の罪も無いウサギを◯した悪ガキ供が胸糞。

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