呪う女 9/18

運動会の時より必死に走った。

風を切る音以外聞こえない程、無呼吸で走った。

 

無我夢中で家に向かって走った。

家まであと10メートル。

 

よし!逃げ切れる!

 

!!!

一瞬、頭にある事がよぎった。

 

このまま家に逃げ込めば、

間違いなく家がバレる!

 

俺はとっさに自宅前を通過し、

そのまま住宅街の細い路地を走り続けた。

 

当てもなく、ただ俺の後方を付いて来ている

であろう『中年女』を巻く為に・・・

5分程、デタラメな道を走り続けた。

 

さすがに息が切れはじめ歩き出し、

後ろを振り向いた。

 

もう、『中年女』らしき人影も足音も

聞こえてこない。

 

俺は周囲を警戒しつつ、

自宅方面へ歩き始めた。

 

再び自宅の10メートル程手前に差し掛かり、

俺はもう一度周囲を警戒し、玄関に

ダッシュした。

 

両親が共働きで鍵っ子だった俺は、

すばやく玄関の鍵を開け中に入り、

すばやく施錠した。

 

「フぅー・・・」

 

安堵感で自然とため息が出た。

 

とりあえず慎に報告しなければと思い、

部屋に上がろうと靴を脱ごうとした時、

玄関先で物音がした。

 

!?

 

俺は靴を脱ぐ体制のまま固まり、

玄関扉を凝視した。

 

俺の家の玄関は、曇りガラスに

アルミ冊子がしてある引き戸タイプなのだが、

曇りガラスの向こう側に・・・

 

玄関先に誰かが立っている影が映っていた。

 

玄関扉を挟んで1メートル程の距離に、

あの『中年女』がいる!

 

俺は息を止め、動きを止め、

気配を消した。

 

いや、むしろ身動き出来なかった。

まるで金縛り状態・・・

 

蛇に睨まれた蛙とは、

このような状態の事を言うのだろう。

 

曇りガラス越しに見える『中年女』の影を、

ただ見つめるしか出来なかった。

 

しばらく『中年女』は、

じっと玄関越しに立っていた。

微動すらせず。

 

ここに俺がいることが、

分かっているのだろうか?

 

その時、ガラス越しに『中年女』の左腕が

ゆっくりと動き出した。

 

そして、ゆっくりと扉の取手部分に伸びていき、

キシッ!と扉がきしんだ。

 

俺の鼓動は、生まれて初めてと言っていいほどの

スピードを上げた。

 

『中年女』は扉が施錠されている事を

確認すると、ゆっくりと左腕を戻し、

再びその場に留まっていた。

 

俺は依然、硬直状態。

 

すると、『中年女』は玄関扉に更に近づき、

その場にしゃがみ込んだ。

 

そして、ガラスに左耳をピッタリと付けた。 

室内の様子を伺っている!

 

目の前の曇りガラスに、『中年女』の耳が

鮮明に映った。

 

もう俺は緊張のあまり吐きそうだった。

 

鼓動はピークに達し、心臓が

破裂しそうになった。

 

『中年女』に鼓動音がバレる!

と思う程だった。

 

『中年女』は2~3分間、

扉に耳を当てがうと再び立ち上がり、

こちら側を向いたまま、ゆっくりと

一歩ずつ後ろに下がっていった。

 

少しづつ、ガラスに映る『中年女』の

影が薄れ、やがて消えた。

 

「行ったのか・・・?」

俺は全く安堵出来なかった。

 

何故なら、『中年女』は去ったのか?

俺がここ(玄関)にいることを知っていたのか?

まだ家の周りをうろついているのか?

 

もし『中年女』に、俺がこの家に入る姿を

見られていて、俺の存在を確信した上で、

さっきの行動を取っていたのだとしたら、

 

間違いなく『中年女』は、

家の周囲にいるだろう。

 

俺はゆっくりと、細心の注意を払いながら

靴を脱ぎ、居間に移動した。

 

一切、部屋の明かりは点けない。

 

明かりを燈せば、俺の存在を

知らせることになりかねない。

 

俺は居間に入ると、真っ直ぐに

電話の受話器を持ち、手探りで、

暗記している慎の家に電話をかけた。

 

3コールで慎本人が出た。

 

「慎か?!やばい!来た!中年女が来た!

バレた!バレたんだ!」

 

俺は小声で焦りながら慎に伝えた。

 

『え?どーした?何があった?』

と慎。

 

「家に中年女が来た!早く何とかして!」

俺は慎にすがった。

 

『落ち着け!家に誰もいないのか?』

 

「いない!早く助けて」

 

『とりあえず、戸締まり確認しろ!

中年女は今どこにいる?』

 

「わからない!でも家の前まで

さっきいたんだ!」

 

『パニクるな!とりあえず戸締まり確認だ!

いいな!』

 

「わかった!戸締まり見てくるから

早く来てくれ!」

 

俺は電話を切ると、戸締りを確認しに

まずはトイレに向かった。

 

もちろん家の電気は一切つけず、

五感を研ぎ澄まし、暗い家内を

壁伝いにトイレに向かった。

 

まずはトイレの窓を、

そっと音を立てず閉めた。

 

次は、隣の風呂場。

 

風呂場の窓もゆっくり閉め、

鍵をかけた。

 

そして風呂場を出て、縁側の窓を

確認に向かった。

 

廊下を壁伝いに歩き、縁側のある

和室に入った。

 

縁側の窓を見て、違和感を覚えた。

 

いや、いつもと変わらず窓は閉まって、

レースのカーテンをしてあるのだが、

左端・・・人影が映っている。

 

(続く)呪う女 10/18へ

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