呪う女 11/18

あいつは俺を呼び出す時、

玄関の呼鈴を鳴らさず

窓に小石を投げてくる事が、

しばしばあったからだ。

 

俺は窓から外を眺めた。

 

家の前の路地にある電柱に慎がいるはず!

と思ったが、慎の姿は無かった。

 

どこかに隠れているのかと思い、

見える範囲で捜したが何処にもいない。

 

その時、俺の部屋の下にあたる庭先から、

「キャ!」と母親の声がした。

 

びっくりして窓を開け、

身を乗り出して下を見た。

 

そこには、母親が地面を見つめながら

口元に手を当てがい、何かを見て驚いていた。

 

俺は何が起こっているのか分からず、

「どーしたの!」と聞いた。

 

母は俺の声にギクッと反応し、

こちらを見上げ、驚いた表情で

無言のまま家の外壁を指差した。

 

俺は良からぬ感じを察したが、

母の指差す方向を見た。

 

そこには、何やらドロっとした紫色した液体と、

ゼリー状の物が付いていた。

 

先程のドスっの音の正体であろう。

 

視線を母の足元に落とし、

その何かを捜した。

 

そこには、内蔵が飛び出た大きな牛蛙の

死体が落ちていた。

 

母はしばらく呆然と立ち尽くしていた。

俺はすぐに『中年女』が頭に浮かんだ。

 

すぐに目で『中年女』の姿を捜したが、

何処にも姿は見えなかった。

 

母はふと思い出したように居間に駆け込み、

警察に電話をした。

 

母は青い顔をしていた。

 

恐らくこの時初めて、『中年女』の

異常性を知ったのだろう。

 

そうだ、あの女は異常なんだ。

 

きっと今も蛙を投げ込んできた後、

俺や母の驚く姿を見て、

ニヤついているはず・・・

きっと近くから俺を見ているはず・・・

 

鳥肌が立った。

 

警察早く来てくれ!

心の中で叫んだ。

 

もうこの家は家では無い。

 

『中年女』からすれば鳥籠のように、

俺達の動きが丸見えなんだ。

 

常に見られているんだと感じ出した。

 

しばらくしてパトカーがやって来た。

昨日とは違う警官二人だった。

 

警官一人は、外壁や投げ込んできたであろう

道路を何やら調べ、

 

もう一人は俺と母に、

「何か見なかったか?」

「その時の状況は?」

などなど、漠然とした事を何度も聞いてきた。

 

最後に警官が、不安を煽るような事を

言ってきた。

 

「たしか、昨日も嫌がらせを

受けているんですよね?おそらく犯人は、

すぐにでも同じような事をしてくる

可能性が高いです」と。

 

俺はたまらず、

「あの呪いの女なんです!

コートを着てる40歳ぐらいの女なんです!

早く捕まえてください!」

 

と半泣きになって懇願した。

 

すると警察官は、

「さっきね、山を見て来たんだよ・・・

犬の死体も、板に彫られたお友達の名前も、

あと女の子の写真もあったよ。

今からそれを調べて、必ず犯人捕まえるから!」

 

と言い、俺の肩をポンと叩くと、

母の元へ行き何やら話していた。

 

「ご主人に連絡を・・・」

みたいな事を言われていたようだ。

 

壁に付いた蛙の染み、及び、

その死体の写真を撮り、

1時間程で警官達は帰っていった。

 

しばらくして父親が帰宅した。

まだ5時前だった。

 

昨日の今日だから心配になったのだろう。

 

夕食の準備をしている母も、

夕刊を読んでいる父も無言だったが、

どことなくソワソワしているのが分かった。

 

もちろん俺自身も、次にいつ『中年女』が

来るのか不安で仕方なかった。

 

その日の晩飯は家族皆が無口で、

ただテレビの音だけが部屋に響いていた。

 

そして夜11時過ぎ、皆で床に就いた。

 

用心の為、一階の居間は電気をつけっ放しに

しておくことになった。

 

その夜も家族揃って同じ部屋で寝た。

もちろん、なかなか寝付けなかった。

 

どれぐらい時間が過ぎただろう。

 

突然玄関先で「オラァー!!」と、

ドスの効いた男の声とともに、

 

「ア゛ー!ア゛ー!」と聞き覚えのある奇声、

『中年女』の叫び声が聞こえた。

 

俺達家族は皆飛び起き、

父が慌てて玄関先に向かった。

 

俺は母にギュッと抱きしめられ、

二人して寝室にいた。

 

カチャカチャ・・・

ガラガラガラガラ・・・

 

父が玄関の鍵を開け、

戸を開ける音がした。

 

戸を開ける音と共に、

「ア゛ー!!チキショー!

ア゛ァー!!ア゛ァァァァ!」

 

再び『中年女』の叫びが聞こえてきた。

 

「大人しくしろ!」

「オラ!暴れるな!」

と、男の声もした。

 

この時、俺は

「警官だ!警官に捕まったんだ!」

と事態を把握した。

 

中年女は奇声を上げ続けていた。

 

俺はガクガク震え、

母の腕の中から抜けれなかったが、

父親が戻って来て、

 

「犯人が捕まったんだ。

お前が山で見た人かどうかを

確認したいそうだが・・・大丈夫か?」

 

と 尋ねてきた。

 

もちろん大丈夫ではなかったが、

これで本当に全てが終わる!

終わらせることが出来る!

 

と自分に言い聞かせ、「・・・うん」と返事し、

階段をゆっくりと降り、玄関先に向かった。

 

(続く)呪う女 12/18へ

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