印 2/2
B母とBが連れ立って葬儀に行ったら、
Bたちを見た同級生母が、
凄まじい勢いで喚き始めたと。
『何であんたが生きてるんだ』
『どうしてうちの子が連れてかれるんだ』
『××に行くのはあんたのはずだ、
印はどうした』
などなど正気でない調子で喚かれ、
B母が例の白い衣装を返そうとすると、
同級生母はさらに激昂して、嘘だ、
こんなのは嘘だと喚きまくり、
BとB母は焼香出来ずに帰ったそうです。
B「あの時は怖くて泣いちゃったけど、
後でお母さんが言ってたんだよね。
『自分の子供が自分より先に死んだりしたら、
誰だって悲しくておかしくなるのよ。
Bに何かあったら、
お母さんだってそうなっちゃうよ。
Bが悪いんじゃないから
気にしないでねって』
今は本当にそうだろうなって思う」
(Aが俺にしてくれた補足、
含むAの推測。以下)
A「Bの好きな怪談って、
車とかエレベーターとか
ばっかりだからかな。
何で気がつかないの?
って正直思うけど。
・・・白い着物に白い被り物って、
それ、お姫様でも巫女さんでもなくて、
花嫁さんなんじゃないの?」
言われて初めて「ゲッ・・・」となった俺も、
相当鈍いと思います。
『みこし』に乗って、
神様の居る『社』に運ばれて、
酒とお供えと一緒に一人で残される。
『白い着物に白い被り物』の娘って言ったら、
それはつまり。
A「専用の乗り物が実際にあるくらいの
古いきちんとしたお祭りなら、普通、
大事な役を新参者の子供なんかに
頼まないよね。
同い年のそこの家の子がいるのに。
その頃は、Bのアレも
小さかったのかもしれないね。
熱出して寝込んじゃったってことは」
B一家は、しばらくして、
また転勤のため町を出たそうです。
それまで例の同級生の家には
徹底的に避けられ、
またそこの家は(B母いわく「不運なことに」)
事故だか病気だかが相次いで、
上の子(死んだ子の兄弟)が
入院したりしていたために
忙しそうで声をかけられず、
例の白い衣装は返却出来ずじまいで、
今もBが持っているそうです。
Bは、子供を亡くした母親は辛いんだ、
悲しいんだ、ということを感じて衝撃を受け、
今も片付けや引越しなど何かの折に、
その衣装を見るたびに切なくなるそうです。
B「お見舞いで私がこの衣装
貰っちゃってなかったら、
あの子は助かったかなって
思ったりして。
何だか捨てられなくて、
ずっと持ってる」
最も、Aの意見では、
その古びた白い着物は、
A「マーキングだと思った。
何となく、ぱっと見た時」
だそうでした。
どっしりした絹地で、
子供が着れば長く裾を引きずるだろう
サイズのその着物には、
全体に細かい精緻な何かの
文字のような文様のようなものが、
びっしり織り込まれていたそうです。
そして、ほんの微かに残る、
焚き染めた香のような香りと共に、
妙に「生ぐさい」(とAは表現してました)
気配と言うか、あっちの世界のものの
臭いがしたと。
Aの言では、
同級生家はBが生還した上に
中々「連れて行かれない」ので、
ダメ押しに花嫁の印の婚礼衣裳を
B家に持ち込んだのではないか、
と言っていました。
けれども社の主は、
何か(多分、Bのアレ)に阻まれて
結局はBを連れて行けず、
そして社の主が暴れた結末が、
それだったのではないか・・・と。
もしそうだとしたらと考えて、
非常に不快な気分になりました。
Bたち新参者の子を家へ誘った
同級生家の子達は、
どこまで知っていたのか。
そしてまた、思惑が外れて
自分の子が連れて行かれてしまった母親が、
どんな気分だったのか。
とにかく後味の悪い話だと思います。
「私も持ってるよ、見る?」と、
Bが見せてくれた写真は何枚かあり、
AはBに頼んで一枚借りて来たそうで、
ご丁寧に俺に見せてくれました。
白い着物の幼いBに、
巻き付くような何本かの黒い線が
写ってる写真を。
B「ピンボケの木の枝が映り込んじゃって、
心霊写真みたいでしょ」
とBは言ったそうですが、
木の枝よりは黒いデカイ手が、
Bを掴んでるように見えました。
ついでに、Bの姿の輪郭の外周りが
グレーっぽくぼんやりして見えるのは、
「白い着物を着てるから」(B談)
と言うよりは、
あの井戸のミニハウスの一件で見たモノの、
掴み所のない姿に似ているような・・・
B母は数年前、友人に誘われ、
ちょっとしたおふざけで、
霊能者にその写真を
見せたことがあるそうです。
霊能者は、
霊者「この少女は、強い強い
山の霊に魅入られています。
気の毒ですが、次の誕生日を
迎えることはないでしょう」
と言い切ったとか。
B母「今は大学生ですよーって
言うのが気の毒で、はあそーですかって
帰って来ちゃった」
とB母から聞いて二人で吹き出しちゃった、
とBは言ってたそうです。
憶測ばかりのハッキリしない話で・・・
(終)
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