我が家の金魚を見ていた幽霊のおっさん
我が家では、半分物置と化した部屋に金魚を飼っている。
元々の趣味ではなく、急逝した親族から引き取ったものだ。
仕事が忙しかったある日のこと、風呂も歯磨きも終えて寝る前に少し金魚を覗こうと部屋に行くと、見知らぬ幽霊らしきおっさんが・・・。
おっさんは、フローリングの床に体育座りをして水槽台を見ていた。
しかしこちらに気づくと、慌てた様子でスッと消えてしまった。
増えている!
この手の体験は過去数回あり、怖い目にも遭っていたので、その夜は心臓がバクバクしてろくに寝られず、翌日は寝不足で出勤するはめに。
だけど、よく考えるとこちらが悪意のある被害を受けたわけではない。
帰宅してから備品やらチェックしても、特に異変は見つからなかった。
霊に同情するのはよくないと知ってはいたが、霊になってしまったらまともな楽しみもないんだろうなと思い、大きめのコピー用紙にマジックででかでかと『悪さをしないなら見ていてもいいですよ』と書き置きをした。
見せる相手が多いわけではないし。
その状態で再び目撃することなく一週間ほど経過した。
そろそろ書き置きを撤去しようかと考えながら部屋に向かうと、また居た。
しかも増えている!
後ろ姿しか見れなかったが、おそらく娘だと思われる小さい女の子を連れて来ていた。
水槽に見入ってるようでその娘はこちらに気づかなかったが、またおっさんが気づいた。
なんだか色々とツッコミたいし、悩みの種が一気に増えた感があったが、その日は軽く会釈をして退散した。
気を許した自分に非があるのは明白だが、『幽霊さん歓迎!公開金魚観賞部屋in俺んち』となるのはさすがに避けたい。
かといって、攻撃的な感情を向けて来ない人をこちらの不手際と都合で追い払うのは何か違うし、相手が相手だけに後が怖い。
どうしようかとオカルト関連の情報を漁っているうちに、更に一週間が経過した。
そして水槽の水換えをしていると、隅っこに放置されていた書き置きが、文字を内側に真っ二つに綺麗に折りたたまれているのに気づいた。
幽霊を見てからこの部屋に入っているのは俺だけで、もちろん俺はそんなことはしていない。
水槽に興味のない猫も飼っているが、そんなのは可能性としてはもっと有り得ない。
だが、折りたたみの書き置きを見つけた日を境に、おっさんと娘の幽霊は見なくなった。
その後、自称霊感のある友人を呼び出してそれとなく聞いてみたが、何も感じないとのこと。
この出来事から1年が過ぎた今、金魚すくいの話を聞いて思い出したので語ってみた。
安らかに成仏してくれていることを願う。
ちなみに、金魚は病気をすることもなく、今日も図々しいくらいに「餌クレ!」とねだっている。
あと猫よ、ちょっとは知らせるなりしてくれ。
(終)