霊に憑依された友人
小6の時、友人3人でスケートリンクに行った。
何周か滑って疲れたので、サイドのベンチにみんなで座った。
すると友人Aが突然、「ここ、どこですか?」と訊いてきた。
友人Bと私は「はあ?」となる。
さっきまでのタメ口とは違い、やたら丁寧な言葉遣い。
「はあ?何言ってんだよ。ふざけるなよ~」と、Bと私は笑ったが・・・。
不思議な体験が突然始まる
笑いながら、ふと見上げた市営体育館の屋根の上に、2人の人影が私には見えた。
女の子ともう少し幼い男の子。
宙に浮いている。
「???」
私はそれまでそんなものを見たことがなかった。
気のせいだと思い、見えていることは口に出さなかった。
空を見上げている私に、「弟です」とAが言った。
言われた私はぶっ飛んだ。
私たちの中に弟がいる者はいない。
心臓がバクバクした。
こいつ、何かおかしい・・・。
Aは一体どうしちゃったんだ?
Bと私は顔を見合わせた。
その間もAは履いているスケート靴を見て、「これなんですか?こんなので滑るんですか?それに、ここも変わりましたね。この辺りには沼があったんですよ。向こうの方にはお墓が・・・」と。
ふ~ん、この辺は昔沼だったのかぁと聞きながらも、このままでは良いはずもなく、Bと私は恐る恐るAに尋ねた。
「あなたはどうしたら元の場所に帰ってくれますか?」
「もう少し周りを見てから」
Aはそう答えた。
どうしてよいのか分からず、再び氷の上を一周することにした。
もともと上手くなかったAだったが、何かに憑かれたAもあまり変わらなかったような気がする。
元のベンチに戻ってきて、「これで帰ってくれますか?」とAに尋ねると、「はい」と頷いてくれた。
が、いつまで経っても帰る様子がない。
また、Bと私は「どうしよう・・・」と顔を見合わせた。
「あの、なぜお帰りにならないのですか?」
顔を見合わせたBと私は、再びAに尋ねた。
するとAは、「いつもの通りに帰してください」と言う。
「えっ、いつもの通りって?」
私たちには何の事だか分からない。
そこで、「いつもどのようにして帰るのですか?」と訊いてみた。
「オシズマリです」
「は?オシズマリって?」
その時の私は、何かの本で読んだことがあったが深くは知らない。
この時のBと私は、憑かれたらしいままのAを彼の親元に連れ帰るしかないと思い始め、同時に覚悟もしていた。
が、その前にダメ元でAに訊いてみた。
「私たちは”いつもの通り”を知りません。あなたが自分の力で帰ることは出来ないのですか?」
ドキドキしながら返事を待った。
「やってみます」
Aが言った。
続けて、「私は白いご飯をお腹いっぱい食べたことがありません。帰る前に白いご飯を食べたい」と。
Bと私は、Aをリンク内の食堂に連れて行き、持っているお金を出し合ってカツ丼を頼んだ。
そして、出来上がってきたカツ丼をAの前に差し出した。
Aは目を丸くして、「ああ~いい匂い! 白いご飯がこんなにたくさん!」と大きな声で言う。
この時の私たちは周りの視線なんてもうどうでもよくて、ただひたすら「無事に帰ってくれ!本当のAに戻ってくれ!」の一心だった。
私は割り箸を割ってAに手渡した。
Aは箸を受け取って、ご飯だけを一口食べ、「おいしい!こんなにおいしいご飯を食べれるなんて!」と。
次に卵とご飯を一緒に食べて、「こんなにおいしものを食べたことがない!」・・・そう言った時だった。
フッとAが目を閉じた。
Aの周りの空気が変わったのが分かった。
閉じた目が開くと、いつものAの目だ。
「あれ?僕なんでカツ丼食べてるの?」
その一言に、Bと私の張り詰めていた気が抜けた。
その後、Aに色々と訊いてみた。
「さっきまでのこと覚えているか?」
「いいえ」
「では、どこにいたのか?」
「ふわふわとした気持ちのいいところ」
「”いつもの通り”とは?」
「時々、●●に行って降ろしている。そのことだろう」
「なぜ今出てきたのか?」
「分からない。何かの条件が重なったのだろう」
Aは私たちに質問されながら、残りのカツ丼を食べていた。
そして、「他人の食べかけを食べてるようで嬉しくない」と言っていた。
(終)