一度だけ体験した白黒の世界
これは、まだ私が小さい頃の話。
私は鍵っ子で、学校帰りは一人が多かった。
ある日の学校の帰り道、いつもの細い道を歩いていると、不意に肩を叩かれた。
振り返ったが誰もおらず、頭の中には「?」が浮かんでいた。
気のせいで済まし、また家の方を見ると絶句した。
目に見えるもの全部が『白黒』だった。
私は一瞬で色盲になっていた。
家にいた綺麗な女の人
訳が分からない私は、それでも驚きながらその風景を楽しんでいた。
白と黒の濃紺で出来た世界は、不思議で仕方なかった。
そのうち、変なことに気づく。
道には白黒の人が何人もいた。
子供も大人もいて、座っていたり立っていたりするのだが、一度も見たことがない人達ばかりだった。
着物姿の人もいるし、皆なんだか動きが遅い。
それに、少し透けているように見えた。
おかしなことばかりだな・・・と思いながら我が家に入ると、中にも人がいた。
泥棒!?と考えたが、その人は帰ってきた私を見て泣き始めてしまった。
歳は母くらい。
でも見たことがない綺麗な女の人だった。
泥棒なのに何だか初めて会った気がしなかったのもあって、とりあえず家に入ろうとした途端、女の人が手を突き出してきた。
「ダメだよダメだよ。見ちゃだめ」
何回もそう言われ、背後を示された。
意味が分からないまま振り返ると、後ろは色が付いた世界だった。
また振り戻って女の人を見ようとしたが、そこはもう白黒の世界ではなかった。
綺麗な女の人もいない。
それきり白黒の世界は見ていないが、一時的に色盲になったとしてもおかしな体験だった。(病状としては有り得ないらしい)
数十年後、自称霊感持ちの友人から、「家への道には霊がいる」という話を聞いた。
詳しく聞くと、白黒で見た人達とほぼ同じだった。
そして、我が家には綺麗な女の人、おそらく守護霊だろうというのがいることまで。
ここで軽い疑問が湧いた。
最初に肩を叩いて白黒の世界を見せたのは誰なのか?
あれから白黒の視界になったことはないので、分からないままでいいのかも知れないが・・・。
(終)