大手術から数日後の夜、病室にやって来たのは・・・
拝み屋のオカンの話。
私のオカンは当時66歳。
なにかと体に不自由のでる年齢ではあったが、いたって元気な肝っ玉ばあちゃんです。
ですが、そのオカンもついに胸苦しさを訴えて倒れてしまいました。
検査の結果、心臓に深刻なダメージがあり、急いで手術をしなければ命に関わるとのことでした。
もちろん家族全員が手術に同意し、手術のために詳しい検査をしたのですが・・・。
連れて行くか?
なんと、先に発見されたダメージとは別に、心臓の別部位に2箇所のトラブルが発見され、オカンは人生初の手術にして心臓3箇所を同時手術という、ヘビーな体験をすることになったのです。
10時間を越えた手術は無事に成功しました。
オカンは無事に麻酔から覚め、脳や心臓への後遺症も無いということでした。
4日後には集中治療室から個室に移動することができ、私たち姉妹は交代でオカンの看病にあたっていました。
そんなある夜のこと。
オカンは誰かの声で目が覚めたそうです。
半分以上寝ぼけた状態で、薄目を開けて室内を確認すると、ベッドの横に2人の人影を見つけました。
白い服を着た若い青年のシルエットだったので、オカンは看護師の男の子たちだと思い、どうせいつもの見回りだろうと無視を決め込んでいたそうです。
ですが、なんとはなしに彼らの会話を聞いていて、あれ?と思ったそうです。
彼らの会話の内容が、看護師がするにしては妙な感じで、明らかにオカンについて話しているのです。
「連れて行くか?」
「連れて行くとうるさいぞ?」
「連れて行かなくてもうるさいぞ?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「よし、見なかったことにしよう」
「そうしよう」
寝たふりをするオカンがきょとんとしているうちに、彼らは話を決めたらしく、スッと病室を出て行きました。
それも、閉じられたままの扉をすり抜けて。
オカンは、そこでようやく彼らが生きた人間ではなかったことに気付いたらしく、翌日に少し興奮気味に私に話してくれました。
オカンは、「お迎えが帰ったってことは、私は当分死なないんじゃないかな?!ハハハハハ」と笑っていました。
それを聞いた私は心の中で、「いや、オカン、そこは笑いどころじゃないから・・・」と思ったのでありました。
(終)