座敷牢で出会った田舎の姉ちゃん
これは、俺が勝手にそう呼んでいる『田舎の姉ちゃん』の話。
父方の郷里が島根で、ガキの頃は毎夏と冬に通っていた。
平屋だがとにかく広い家で、一日中探検するのに全部は回りきれていない感覚があった。
ある日のこと、本当に見覚えのない長い廊下に出て、進んで行くと木製の格子に囲まれた部屋に辿り着いた。
今ならあれが”座敷牢”と呼ばれるものだと分かるが、当時ガキだった俺には分からず、恐れもせずに近寄って行った。
そこで出会ったのが『田舎の姉ちゃん』だ。
アレがいまさら!?
とても綺麗な人で、花魁のような大層な和服を着ていた。
俺は「わや」と呼ばれて、色んな面白い話を聞かせてもらい、すぐに懐いた。
山に川に原っぱに変な遺跡群にと、ガキの興味を惹くものは山ほどあったのに、家から出なくなった俺を怪しんだ親父が「何かあったのか?」と聞いてきたが、なんとなく黙っていた。
何年かして、いつの間にやら田舎へ行くのが億劫になり、やがて行かなくなった。
その頃、田舎の家に住んでいた曾祖父がうちに移り住んできた。
また、そこそこ遠方に豪華な屋敷を持っていたはずの祖父もやってきて、我が家は随分狭くなってしまい、そのことに不満を覚えた俺は親父に何があったのか聞いた。
なんでも、祖父がやっていた事業が乗っ取りを受けたらしく、全部を失う前にと這う這うの体で逃げて来たとか。
不運は続くもので、曾祖父の家も季節外れの大雨と川の決壊で床上浸水して、壊滅的な被害を受けたそうな。
そんな頃、ふとあの田舎の姉ちゃんのことを思い出した俺は、「あの女の人はどうなったの?」と聞いてみた。
親父「そんな、アレがいまさら!?」
祖父「アレに会えたのか?まさか、出したんじゃないだろうな!?」
曾祖父「いや、さすがにないだろう。呼ばれもしてないのに」
と、侃々諤々の話し合いを始めた。
※侃々諤々(かんかんがくがく)
盛んに議論をするさま。
俺は、「出すも何も、あの格子には扉も鍵もなかったけど・・・」と言い訳をしていた。
と同時に、やはりあの人は閉じ込められていたのか、と気づいた。
もしかして、あの人は”座敷わらし的なもの”だったのか?
曾祖父はその後も百歳過ぎまで生きて大往生し、祖父は至って健康にまだ生きている。
幸運の振り返しなんてものはないようだが、親戚たちの話によると、結構あったはずの資産が底を尽いていたらしい。
また、曾祖父が言っていた「呼ばれもしてない」というのは、俺が田舎へ行きたがらなくなった、ということなのか?
(終)