犬の散歩をしていたはずが

犬

 

これは、犬を散歩していた時に起きた不可解な体験話。

 

飼い犬の散歩は、家族の中で彼の役割なのだという。

 

その夕暮れも、いつものように犬を連れて裏山を歩いていた。

 

すると、急に引き綱がずっしりと重くなった。

 

引っ張ってもびくともしない。

 

「何を踏ん張ってやがるんだ?」

 

振り返った途端、目が点になる。

 

引き綱の先に犬はいない。

 

代わりに、彼が引き摺っていたのは『小さな石地蔵』だった。

 

その石地蔵には犬の首輪がしっかりと引っかかっている。

 

薄暗くなった山道、犬の姿はどこにも見当たらない。

 

首を傾げながら家に戻ると、門の所で犬が彼を待っていた。

 

嬉しそうに尻尾を振っている。

 

「何があった?」と尋ねてみても、返事が得られるわけもない。

 

とりあえず頭を撫でて、その日の散歩は打ち切った。

 

家族に話してみると、「これも何かの縁だろう」ということになり、裏山への登り口にその石地蔵を祀ることにしたという。

 

そして、誰が参っているのかわからないが、時折お供え物がされてあるそうだ。

 

(終)

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