神隠しに遭ったと噂になった婆さん
これは、盆栽サークルの爺さんから聞いた話。
爺さんの住んでいた村より少しだけ都会に近い村(以下、加辺村とする)でそれは起こった。
ある日、加辺村に住む婆さんが「神隠しに遭った」と噂になった。
その話を聞いた時点では何とも思わなかったが、用事で加辺村の実家に行っていた近所の嫁さんが詳細を聞いてきて、村はその話で持ちきりになった。
さすがに爺さんも好奇心が頭をもたげ、仲間とどぶろくを持ってその家を訪ねたところ、不思議な話を聞かされたそうだ。
警察は失踪事件として処理したらしいが、ある若者が「婆さんが消える瞬間を見た」という。
夕暮れ時、ふと通りに目をやると、遠くに件の婆さんが歩いているのが見えた。
そのままぼんやりと見ていたそうだが、婆さんの進む先に見慣れないものが見える。
それは大きな石碑のような形をしており、頂上付近には小さい黒い点が横並びに二つ。
婆さんは、それに向かって真っ直ぐに歩いている。
婆さんがそれに気付いたであろう時、「石碑の真ん中が真っ黒くなり、婆さんはそこに引きずられるように吸い込まれていった」というのだ。
婆さんを吸い込んだ石碑のようなものは、その後もそのまんまで佇んでおり、若者もしばらく呆気に取られて見ていた。
だが、上にある二つの点は目、中央の真っ黒な所が口だと気付いた時、全速力で家に逃げ帰り、布団を被って震えていたという。
爺さんがその話を聞いてかなり日が経ってから、「加辺村の婆さんの家では、色々と手を回して何とか婆さんの葬式をあげたらしい」という噂を耳にしたそうだ。
(終)