怖い話を作る時に使ってはいけない言葉

紙とペン

 

一昔前の雨の日、ある怖い話を書くのが好きな人の元に、一人の男がボロボロの身なりで訪ねて来た。

 

しかし、どこから来たのか聞いても男は口をつぐんでいる。

 

少し怪しく思いもしたが、雨の中をさ迷っていたのでは可哀想だと、主人は男を丁重にもてなした。

 

そして、食事を済ませた後しばらくして、男は低い声で語り始める。

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この男は一体何者なのか?

/ここから男の語り/

アンタは優しいから教えてやる。

 

これは忠告だ。

 

これから絶対に、怖い話を作る時には架空の地名は使ってはいけない。

 

何故かって?

 

だって変だとは思わないか?

 

その話を作ろうと思う数分前、お前の頭の中には話のあらすじすらなかったはずだ。

 

なのに、話はどんどん出来上がっていく。

 

何故だと思う?

 

答えは、お前の近くにいる、そのお話を実際に体験して死んでいった霊がお前に語りかけてるからなんだ。

 

気付いてないだろうが、まずお前が話を作りたいと思った時点で、あいつらは話しかけてくる。

 

これだけならまだいい。

 

無視するなりなんなりまだ間に合う。

 

しかし、地名だけは設定してはいけない。

 

いや、させられてはいけない。

 

地名設定をするということを起点に、そいつはお前に取り憑くのだから。

/男の語りここまで/

 

正直言ってとても胡散臭い話だったが、男の妙な説得力に押されて信じてみる気になり、さらに突っ込んだ質問をしてみた。

 

「じゃあ、そこまで幽霊のことに詳しいアナタは一体何者なんですか?」

 

男は軽く笑いながら立ち上がり、「はは、柳川村出身のただの物好きだよ。ちょっとトイレを借りるぜ」と答えた。

 

そうして男は襖を開けて部屋から出て行った後、主人はあることに気付き青ざめる。

 

“柳川村”は、昨日私が書いたお話の架空の舞台だ・・・と。

 

急いで襖から出て男の姿を探すが見当らない。

 

変わりに、こう文字が書かれた紙切れが一つ落ちていた。

 

『こんなにもてなされるのは死ぬ前にも後にもこれだけだろうな。ありがとうよ。物好きより』

 

それ以降、この主人が書くお話には地名に関する話題が一つもなかったそうだ。

 

(終)

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