目の前に立ちふさがる大きな藁の道祖神
これは、以前に父の勤める博物館へ行った時の話。
そこには藁で編まれた、とても大きな人形があった。
2メートルくらいはあったと思う。
まだ幼い私は父に尋ねた。
「お父さん、これは何?」
「これは昔のムラという集落同士の辻に置いた“道祖神”だ。1つは村の内側、1つは村の外側に置く事で、災厄がムラに入り込むのを防いでいるんだ」(ムラ=村になる前の民家の集合体、辻=十字路、道祖神=路傍の神)
「怖い顔・・・」
「ムラの内側を向いたものはもう少し優しい顔だ。これは怖い顔のものを選んできたのさ」
その日から数日間、私は同じ夢を見た。
それは、山奥のムラの辻に私が立っている夢。
目の前に立ちふさがるのは大きな藁の道祖神。
どこからか焦げ臭い匂いがする。
「オマエハダメダ」
「でも・・・ムラに行きたい」
「ダメダ」
押し問答を繰り返し、結局入れてもらえない。
ある時、父にそれを話すとこう言われた。
「そうか、お前は災厄扱いされたのか。しかし道祖神は神様なんだから無理強いしてはいけない。何か理由があるはずだから」
次の日、その道祖神は焼かれた。
そういう決まりなんだそうだ。
その日から、私はその夢を見なくなった。
後に知ったが、その道祖神はムラの中の人間が死ぬ時、ミニチュア版を作られて一緒に燃やされるらしい。
ただ疑問に残ったのは、あの夢の中の私は一体どこに行こうとしていたのだろうか。
(終)