「姫の池」と呼ばれるただの沼にて

ドジョウ

 

これは、今は決壊して無くなってしまったある沼の話。

 

20年も前のことです。

 

うちの地域ではドジョウを食べる文化がありました。

 

今もあるのですが、健康に良いとかなんとか・・・。

 

その昔、私はじいさんとよく『姫の池』と呼ばれる沼へ釣りに行っていました。

 

姫の池と言ってもただの沼なのですが。

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事件が発生する

姫の池と呼ばれる所以は、お昼12時過ぎにそこへ行くと江戸時代の十二単を着た女性が沼を歩いているとか、夏の夜中2時半にそこへ行くと人型にホタルが集まるとか、そんな色々な噂が絶えない場所からです。

 

誰も近寄らなかったので、よそ者のじいさんと私は毎日のように大量を喜んでいました。

 

ドジョウはそんなに美味しいものではありませんが、ばあさんが喜ぶのでたくさん釣って帰っていました。

 

ある日、岩雪崩が起きるほどの大雨が降って姫の池は決壊し、舗装された山道の脇の側溝に色んな魚が流れ込む事件が発生しました。

 

しかし、地元の魚屋さんがドロを吐かせれば大儲け出来ると考え、溢れ出した魚をかき集めて店で売りました。

 

そして、とても大きなヌシだと思われるドジョウだけが売れ残り、それを魚屋さんが食べてしまいました。

 

結果、三日三晩の高熱と共に息を引き取ったそうです。

 

それと関係あるのかは分かりませんが、大雨の次の日、じいさんと私は姫の池へ釣りに行きました。

 

その道中、地味な着物を着た女性に会いました。

 

何か探しものをしている様子だったので、私は声をかけました。

 

「おばちゃんどうしたん?なんか探してるん?」

 

少し驚いた顔をされながら、こう返答されました。

 

「池がわや(ダメ)になってしもうて・・・」

 

おばちゃんが話しかけてきた途端、私は後ろから何かに掴まれて、もの凄いスピードでバックしていきました。

 

犯人はじいさんでした。

 

そしてじいさんが「何を見た?ワシにはなんも見えとらん!何と喋っとった!?」と言うので、私は「おばちゃんがおって、池がめちゃくちゃになってて何か探してたで」と答えた。

 

おばちゃんは追いかけて来ませんでした。

 

ただ、悲しそうな顔をして私を眺めていました。

 

(終)

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