湖の中から伸びてきた華奢な白い手

小舟

 

これは、友人の話。

 

釣り仲間に誘われて、夜釣りに出かけたのだという。

 

近場の山中に大きな湖があり、そこにボートを浮かべて釣りを始めた。

 

夜でも釣れるものなのだな、と感心したそうだ。

 

湖の中ほどに差しかかった時、水音がしてボートが揺れた。

 

驚いて見回すと、ボートの縁にかかった『白い手』が見えた。

 

華奢な女性の右手で、水中から伸びていた。

 

凍りついた彼をよそに、仲間は慣れた手つきでゴムハンマーを取り出した。

 

そのまま船縁の指に振り下ろす。

 

鈍い音が聞こえると、手は水中に没していった。

 

金縛りの解けた彼が問いただすと、仲間は平然として答えた。

 

「時々出るけれど悪さはしないよ。気味が悪いから追い払うけど。怪我させるのも可哀想だからゴムハンマーで軽く叩いてるんだ」

 

彼らは夜明け近くまで、そのまま釣りを続けた。

 

手は現れなかったそうだ。

 

(終)

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