人が死んだ車は運転席の辺りから嫌な感じがする
俺はド田舎にある車の修理工場で働いているのだが、これはそこの親方の話。
親っさんは変わり者で、地元ではちょっと有名な人。
腕は確かにいいのだが、偏屈というか、修理が出来そうな車でも別の所を紹介したりする。
お客さんとしても、たらい回しにされるのを嫌ってゴネたりする人もいるが、そんなお客さんに親っさんはこう言う。
「この車、何度直しても同じ所が壊れるでしょ?新品にしたのにすぐ壊れたりして。そういう車は俺の技術じゃ直せんし、原因もわからん。俺は腕がねぇから自信のある腕のいい人に言うてくれ」
それで大体のお客さんは黙って紹介された所へ行ってくれる。
働き始めて5年程した頃、親っさんが競馬で儲けたので「飲みに行こうや」と誘ってくれた。
従業員4人を連れて地元のキャバクラで飲んでいると、従業員の一人がスパークプラグが不良なだけの車を直さなかった親っさんに言及したところ、親っさんはこう答えた。
「ありゃぁおめぇ、何年もこの仕事やってりゃぁわかるんだけどよ、人が死んだ車ってのはなぁ、運転席の辺りから嫌な感じがするんだよ。
気のせいかもしれんが、過去にそんな車を直してえらい目に遭っとるからなぁ。偏見がほとんどなんじゃろが、俺はそんな車の修理はでけんでな。
だってそうじゃろ?学んできた技術が通用しない言うんじゃ、どうないすることもでけんわいな」
いわゆる『曰く付き』というやつのことを言っているのだろう。
そう察したその従業員は、中古車を買う時は親っさんに相談するようになった。
ちなみに、まだ親っさんからのNGが出たことはない。
実際に追い返した車が事故車だという証拠もないが、妙に説得力があるため、車を買う時は少し怯えながら相談する。
それに、地元の人も何人か親っさんに相談しに来る。
そうして噂が広まり、親っさんは地元ではちょっと有名な人になった。
(終)