大切にしていたビー玉をくれた友達
これは、たぶん子供を怖がらすための作り話でしょうが、こんな話を子供の頃に聞かされました。
『窓に、むやみに近づいてはいけない』
理由は、ガラスは液体だからというものでした。
物理上か化学上かは知りませんが、ガラスは厳密には固体ではないので、期限が来ると粉々に砕け散るということだそうです。
私の小学校では当時ビー玉弾きが流行っていましたが、勢いよくカチンとやる度に、「あっ、今が期限だったらどうしよう!」とビクビクしたものでした。
それだけなら可愛いお話なのですけど・・・。
そんな頃、仲の良いお友達が転校することになって、私は悲しくて泣いていました。
ですが、彼女がいよいよ引越しということで見送りに行った日、宝物のビー玉をくれたのです。
いつもとても大事にしていて、弾きにも使わない物でした。
私は「そんな大切な物もらえない」と言いました。
すると彼女は、「よーく、この玉の中を見て」と言うのです。
私は太陽の光にかざして、玉の中を一生懸命に覗き込みました。
その時、玉の中心に炎のようなものが見えたのです。
「あっ、中で何か燃えてるよ?」
「そうでしょ。とっても不思議なの。これを私だと思って持ってて。私がどんなに元気かいつでもわかるから」
そう言って、彼女は出発して行きました。
時は過ぎて私が成長して高校生になった頃、すっかり忘れていたこのビー玉が再び目に留まりました。
そして思い出を懐かしみながら、また太陽の光にかざしてみました。
でも、いくら覗き込んでも、あの時に見た炎のような輝きは見えませんでした。
あれは幻だったのかなぁ・・・。
子供だし、何かを見間違えたのかもしれません。
でも気になった私は、しばらく小さな座布団に乗せて机の上に置いていました。
すると、ある日に突然ビー玉は砕けて砂になってしまったのです。
ああ、期限が来たのかなぁ、と思いました。
小学生の頃に離れ離れになってから、このビー玉をくれた彼女の消息はわかりませんが、きっと死んでいると思います。
(終)