猿を獲って滋養にする椎茸
これは、ある椎茸の話。
持ち山の手入れをしていると、不気味なものを見つけた。
太い椚(くぬぎ)の幹、その下の方に座椅子のようなものがあり、茶色の人形が腰掛けている。
近寄ってよく見ることにした。
座椅子ではなくて、大きな平べったい茸のようだ。
そしてそれに腰掛けていたのは、ミイラのように干涸らびた小さな猿の骸だった。
気持ち悪くなり、その場を去った。
下に降りてから自分の見たものを話していると、親類の爺さんがこんなことを言った。
「うちのずんと山奥には、コシカケって呼ばれる猿を獲る椎茸があるんだそうだ。猿の好きな匂いを発して、惑わせて自分の上に座らせるとか。すると猿は酔い潰れて動けなくなり、そのまま茸の滋養になるんだとさ」
そんな気色の悪いこと誰から聞いたの?と尋ねると、爺さんはこう答えた。
「わしがまだ子供の頃、出入りしていた薬売りがそんなこと言ってた。その椎茸が、筋の好事家にはえらく良い値段で売れるってな。最もその薬売りのオッサン、うちの山には絶対入ろうとせんかったが」※好事家(こうずか)=物好きな人
それを聞いて、従兄弟を連れてもう一度出向いてみた。
しかしどこを探しても、あの不気味な腰掛けは見つからなかった。
(終)