池の中央で必死の形相で手を振る子供
これは、友人が体験した怪異話。
山中の野池へ、仲間と二人でバス釣りに出かけた。
ボートを出して池の中ほどで楽しんでいると、視界の外れで動く影がある。
子供が溺れていた。
必死の形相で手を振っている。
「おい、アレ!?」
ツレもそれに気が付き、慌ててボートをそちらに回す。
エンジン全開で水上を走り、子供まであと少しという所で…。
“ドン!”という衝撃が船底を襲い、二人してボートの外に投げ出された。
ボートは浅い砂洲に乗り上げていた。
一瞬溺れるかと焦ったが、足が水底に着くことを確認して落ち着く。
なんとか立ち上がってみると、水は脛下(すねした)までの深さしかなかった。
「大丈夫か?」というツレの声で我に返り、子供の方に目を向けた。
ついさっきまで、そこで足掻いていたはずの姿がどこにもない。
水面は凪いでいて、浅い底が透けて見えていた。
冷静になってみると、色々とおかしな点に気が付き、ツレに確認する。
「そういえばさ、お前はあの子の悲鳴っていうか声、聞こえた?」
「あ、あぁ、誰の声も聞こえてなかったかも」
「今思えば、水がバシャバシャ跳ねる音も全然聞いてないんだよね」
「・・・・・・」
「今見たの、まともな子じゃないぞ!」
必死でボートを深瀬に押しやり、そこから逃げ出した。
岸に這い上ると、その日はそこで終わることにする。
その後しばらく、その野池には近寄らなかったそうだ。
(終)