死人が家に帰って来ないように
これは、石じじいの話です。
ある日のこと、山の上に『まとまった墓地』があるのを見つけたそうです。
周りの集落からはかなり離れた場所だったので、そのような場所に多くの墓を建てる理由が理解できなかったと。
しかも、その墓地への道が通っていません。
獣道のようなものも見当たりませんでした。
比較的新しい墓石もあり、お供え物もあったのですが、その墓石は小さく簡素なものだったそうです。
もちろん、大きなものはこんな山の上まで運び上げられないでしょうから。
山から下りて村の人に尋ねたところ、あれは『村の本当の墓』だったそうです。
本当の墓?
その村の中には、かなり立派な墓があちらこちらにありましたから、別の墓を建てることの意味がわかりません。
しかし村の人が言うに、この村の中にある墓は、単に「故人を祈るための墓」だと。
それに、「そこにお骨は入っていない」とも。
お骨は、山の上にあったあの墓に納めてあるのだとか。
村の人の話は、さらに続きます。
「ここいらでは、死んだ人間が墓の中から出てきて、自分の家に帰ってくるのだ。昔の土葬の時代はもちろん、火葬になってからも戻ってくる。
そこで、墓を遠くの山に建てて、そこへの道なども作らず、人の通った跡も残さず、死人が帰ってこないようにするのだ。
あんた(じじい)が死人に道を教えとらんかったらええんやがのう…」とも。
少し間を置いてから、「心配やけん、これからお寺に行って、村の入り口で拝んでもらわんといけない」と言って、その村の人は途中のお寺までじじいに同行したそうです。
じじいによると、この村とは違って「死人を呼ぶ村もあった」そうです。
その話は、また別の機会に。
※参考
この話と似たものとして、「死人が化けて出ないように、重りとして大きな墓石を置く」という場所もあるようです。
(終)