睡眠中、突然目が覚めた私の目の前に
これは私が高1だった時に起きた、ある夜の奇妙な体験話。
その夜、私は壁際に置いたベッドで壁の方を向いて横向きに寝ていました。
ですが、ぐっすり眠っていた私は突然目が覚めたのです。
それも普通に目覚める時のようにゆっくりではなく、ぱちりと目が開きました。
そして目が開いた私の目の前に、私を凝視している『顔』がありました。
添い寝をしているような体勢で、顔と顔を突き合わせてしまったのです。
目鼻立ちがくっきりした顔。
性別はわかりませんでしたが、表情は怒ったような、何かを訴えるような感じでした。
と言っても、長い時間その顔を見ていたわけではありません。
顔から下も見ませんでした。
それでも、目に焼き付いてしまったのです。
怖くて反射的に寝返りを打ちました。
その時に偶然視界に入ったのは、壁と反対側のベッドサイドに置いてある時計。
時刻は1時過ぎを指していました。
壁を背にして横向きになった私は、次の瞬間、”金縛り”に遭いました。
初めての経験でした。
体がまったく動きません。
声も出せません。
それに、どうやら寝返りを打った瞬間に目を固く閉じてしまったらしく、目を開けることもできませんでした。
指先ひとつ動かせずに怯えている私の背後には、まだあの顔を持つ何かが添い寝をしています。
なぜわかるのか?
それは、固まってしまった私の首筋に息がかかるのを感じていたからです。
その息は早く、それでいて冷たく、ずっと首筋にあたり続けています。
私はパニック寸前でした。
さらに恐ろしいことに、声まで聞こえてきたのです。
「ママ~、ママ~」
そう言っているように聞こえました。
やはり男とも女ともつかない、地の底から聞こえるような、はたまた頭の中に直接響いてくるような声でした。
とても怖くて逃げることしか考えられなくなってしまった私は、なんとかして体を少しでも動かそう、声を出そう、これをなんとか振り切ろう、としました。
体に力を入れ、どこでもいいから動かそう。
声が出なければ音でもと、とにかく全身を力ませていたように思います。
そして次第に、振り切れそうな気がしました。
気がつくと私は、さっきまでと同じ姿勢でベッドの横の床に横たわっていました。
とても長い時間倒れていたような気がしましたが、慌てて起き上がり、部屋の明かりをつけて時計を見ると、5分も経っていませんでした。
夢?とも考えましたが、息のかかる感触、声の響きはどうしても夢だったとは思えません。
後日談
それから数日後、飼っていた犬を部屋に連れて来てみたところ、天井の角に向かって吠え続けていました。
それを見た私はさらに怖くなったので、とりあえずその方向に向かって「出てこないで…」とお願いしつつ、なぜか謝っていました。
実は、この奇妙な出来事が起きる前から知っていたことなのですが、母は私と弟の間に生まれるはずだった子供を死産しています。
もしかすると何か関係があるのかもしれませんが、あの日以降、これといった異変は起きていません。
(終)