成長していく骸骨模様の壁のシミ
これは、家族で県営の住宅に住んでいた時の話。
俺の部屋の壁には『骸骨のようなシミ』があった。
それは物心がついた頃からあったが、最初は親指ほどの大きさだったのを覚えている。
それが十数年経つと、縦60センチ横45センチほどに成長した。
これほどの大きさになるとさすがに気持ち悪くなり、ジャケットなどで隠して生活していた。
だが、高校入試の勉強に勤しんでいる俺の横で、深夜にパサッとジャケットが落ちたりして度々嫌な気分にさせられた。
そんなことが続いた、ある日のこと。
家に帰ると、あのガイコツの部屋の壁全てが黄緑色に塗られていた。
父に聞くと、「お前もあんなもんがあると勉強に集中できんだろ。だから塗り潰してやった」とのこと。
俺にすれば入試のことで頭がいっぱいだったのでどうでも良かったが、正直少しほっともした。
そして、その年が明けて高校も何とか受かって喜んだのも束の間、両親が突然、離婚した。
家族はバラバラになり、俺は16年過ごした県営住宅を離れた。
それからさらに10年の月日が流れ、風の頼りであの県営住宅が取り壊されることを知った。
いてもたってもいられず、俺は幸せだった頃の家族の思い出をたどりに夜中、ブルーシートに包まれ解体準備に取りかかっていたあの住宅に忍び込んだ。
何もない部屋はどの部屋も少しづつ装いが変わっていて、俺たち家族が暮らしていた頃の匂いはほとんど残っていなかった。
しかし、俺はふと思い出す。
そうだ、アレはどうなった!?
この家の一番奥の、俺の部屋のアレは…。
埃の積もったドアノブに手をかけて回すと、ギギーッと音を立てて軽く開いた。
そこには、壁一面に広がった骸骨のシミがあった。
俺は無意識に「ただいま」と呟いた。
不思議と恐怖はなく、ただ懐かしかった。
(終)