意識してしまったせいで
たった今の出来事なのだが聞いてほしい。
明日、というか今日はビンと缶を出す日。
こんな時間まで起きていたので、朝イチで出しに行く作業を残しておきたくなく、寝る前にゴミ捨て場に持って行った。
夜も更けてきた時間だけに、住宅街はシーンと静まっている。
うちの界隈はその住宅街の端に位置しており、すぐ裏には雑木林とゴルフ場しかなく、普段から夜はかなり不気味に感じる。
街灯もあまりない。
ゴミ捨て場でタバコに火をつけて一服していると、近くの家で突然、ジャバジャバジャバと水が流れる音がした。
ビクっとして見渡すと、隣の家の一室の明かりが消えた。
「ああ、トイレか」
安心したが、そこで少し怖くなってしまい、意識してしまった…。
ただ、タバコに火をつけたばかりでもったいないから、ちょっと遠回りになるが吸いながら家に向かって歩いていた。
今思えば、おそらくルートを間違えたと思う。
無意識に通った道だったが、魔が差したとしか言いようがない。
その家の前を通る時、ふと上に、二階の方に目を上げてしまった。
すると、明かりはついていないのに窓の近くに誰かがいて、こちらを見ている。
たぶん男の子。
敵意なのかはわからないが、すごく粘っこい視線。
どうしようもなく怖くて、視野の端でチラチラと見る。
もし顔をそちらに向けてしまうと絶対に目が合うから。
ただ、その家は『空き家』なんだ。
近所付き合いがないから詳しくは知らないが、以前そこに住んでいた家族の親が子供を蹴り殺したとかで、去年の夏にどこかへ引っ越している。
当時は警察がよく来ていたが、「パトカー邪魔だな」くらいにしか思っていなかった。
その場を早く離れようと、前だけを見て歩き始めたところ、向こうの視線がはっきりと強くなった。
背中のすぐ後ろにいる。
絶対に振り返りたくなくて、走って家に帰り、家中の電気をつけ、嫌がる猫を抱いて布団に入っている。
もちろんその子に怨まれるようなことはなく、むしろ「ついに見てしまった」という感じだが、今は心底怖い。
(終)