幻を見ていた不思議な2年間

住宅地

 

これは、私が小学生の時の体験話です。

 

私の家の近所に、老夫婦の住む家がありました。

 

その夫婦は子供がなかったらしいのですが、品がよく仲睦まじいのが有名で、よく奥さんが家の前を掃き掃除しているのを見かけたものでした。

 

私が学校から帰ってくる時、奥さんと鉢合わせすることが多くあり、その度に奥さんは小さい私を可愛がってくれて、たまに飴玉などお菓子をくれることもありました。

 

それが、私が小3だったある日、学校から帰っていると老夫婦の家の前に人だかりが…。

 

集まっている近所の人に何事かと尋ねると、奥さんが表で倒れてしまい、救急車で運ばれる最中とのこと。

 

やがてぐったりした奥さんが救急隊員に運ばれていくのが見え、奥さんは救急車に搬送され、私は去ってゆく救急車を近所の人たちと不安な気持ちで眺めていました。

 

1週間後。

 

奥さんはどうしたのかな…と案じながら家路を急いでいると、老夫婦の家の前で奥さんが掃き掃除をしているのに出くわしました。

 

「あれ?もう具合はいいの?」

 

「ええ、もうぐっと良くなったの。近所の皆さんに心配かけてすみませんって、お婆様とお母様に言っておいてね」※私の祖母とこの奥さんは手芸教室の友人でした

 

そのような会話を交わし、私はすっかり奥さんの体調が治ったものと思い安堵しました。

 

以後2年間くらい、今まで通り学校の帰りに奥さんと会うことが続きました。

 

それが、私が小5の夏休みに入ってから、なぜか一度も奥さんを表で見かけることがなくなってしまったのです。

 

最初は気にもしていませんでしたが、ある日ふと気になって、台所で夕食の支度をしていた母に、あの奥さんは最近どうしているのか聞いてみました。

 

「何言ってるの。あの奥さん結構前に亡くなったじゃないの」

 

「えっ?」

 

びっくりして話を聞いてわかったのですが、どうやら奥さんが群衆の中を救急車で搬送された小3のあの日、搬送先の病院で急死していたようなのです。

 

お葬式は奥さんの実家のある田舎で行われたようで、私には奥さんの死を知る機会もなかったようでした。

 

それなら、あの日から2年間、私が表で会い、挨拶をし続けた、そしてお菓子までもらっていたあの奥さんは一体…?

 

ちなみに、奥さん亡き後、家に一人残されたご主人は、それから2年後に屋内で孤独死しているのを親戚によって発見されました。

 

なんでも死亡した日をわり出したら、それが奥さんの命日だったとか。

 

こういうことってあるものなんですね。

 

(終)

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