マンション内で殺人事件のあった翌朝に
深夜、
仕事を終えた男がマンションに
帰って来た時のこと。
エレベーターが一階に止まり、
乗り込もうとすると、
深々と帽子を被った男が
急いだ様子で降りて来て、
肩が激しくぶつかった。
詫びの言葉もなく不快に思ったが、
疲れていたので大して気にも留めず、
その夜は眠りについた。
翌朝、
テレビのニュースを見て、
男は驚いた。
なんと、
自分の住んでいるマンションで
殺人事件が起こったというのだ。
ふと、昨日の男が脳裏をよぎる。
その時、
玄関のチャイムが鳴った。
警「あの~すみません、
警察の者ですが~」
覗き穴から見ると、
警官が一人立っている。
男「何でしょう?」
警「昨日、このマンションで殺人事件が
起こったのはご存知ですか?」
男「ええ。今しがたニュースで・・・」
警「昨日の夜、不審な人物を
目撃されませんでしたか?」
男「・・・いえ、何も」
警「そうですか、
もし何か思い出しましたら
署までご連絡ください」
男「はい、分かりました」
男は面倒だったので、
昨日のエレベーターでのことは
言わなかった。
そして、その夜、
帰宅した男の目に
飛び込んできたニュースは、
男を驚愕させた。
このマンションで起った殺人事件の
容疑者として逮捕された男の顔は、
今朝、訪ねて来た警官だったのだ。
もしエレベーターの男のことを
言っていたら・・・。
(終)