体調を崩して寝込んでいた日に起きたこと

 

私は昔から身体が丈夫ではなくて、

 

季節の変わり目には

ほぼ体調を崩してしまうのだが、

 

2週間ほど前かな･･･

 

いつものように風邪を引いて

寝込んでいた。

 

熱は37度ちょっとだったんだけど、

だるくて痛くて意識が朦朧としていた。

 

※朦朧（もうろう）

 

朝にお粥を食べて、

いつの間にか寝てしまっていたらしく、

 

窓ガラスのサッシが『ガラッ』と開く音で

目が覚めた。

 

最初は「お母さんが窓を開けたのかな」、

とか思っていたけどそれはない。

 

その日、母はパートで

夕方まで家に居ないはず。

 

お父さんが出勤する車の音も

ちゃんと聞いていたし、

 

姉と妹も出掛ける前に

様子を見に来ていたので、

 

今、家に居るのは、

私とペットたちだけのはずだった。

 

開いた窓へ顔を向けると、

窓枠に黒い靄がかかっていた。

 

※靄（もや）

 

それはおぼろげながら、

人の手のような形をしていた。

 

ぞわっと総毛立つ感覚がして、

 

ヤバイと思い逃げようとしたけれど

身体が重くて動けない。

 

その靄は、

ゆっくりと部屋の中へ入ってきた。

 

そいつの全身は、

墨が滲んだような人型だった。

 

ついにその靄は私の部屋に降り立ち、

私の横たわるベッドへとにじり寄ってきていた。

 

「ヤバイ･･ヤバイ･･ヤバイ･･･」

 

ただそれだけを思って、

必死に動こうとした。

 

そいつの手が私に伸びてきた時、

ドアが『バン！』と開き、

 

ペットのミニチュアダックス犬が、

 

普段出さないような吼え方で

慌てて飛び込んできた。

 

その鳴き声を聞いた瞬間、

身体が動くようになって、

 

私はベッドから転げ落ち、

這いずるように部屋から出た。

 

後ろではダックスがギャンギャンと吼え、

私をかばっているようだった。

 

階段を下りて一階へ逃げようとしたが、

階段に足を取られ転げ落ちてしまった。

 

背中を打った痛みで

動けずうずくまっていると、

 

そいつは階段を下りて、

私の方へと向かって来ていた。

 

相変わらずダックスは吼え続けていたが、

 

そいつは気にも留めずに私の方へと

ゆっくりと進んで来ていた。

 

逃げたくても痛みで動けず、

そいつに追いつかれてしまい、

 

そいつは私のあごを片手で掴むと、

無理やり口を開かせてきた。

 

あごが割れるんじゃないかと思うくらいの

激痛が走り、

 

もがいて抵抗したが

そいつはまったく意に介さず、

 

もう片方の手を私の口にねじ込んできた。

 

ミリミリと自分の口の端が

裂けていっているのがわかった。

 

激痛と悪寒でどうにかなりそうだったが、

 

その時になってようやく、

そいつが何かを呟いているのがわかった。

 

「欲しい･･･欲しい･･･」

 

そいつはそう呟いていた。

 

すでにそいつの腕の肩の付け根まで、

私の中にねじ込まれていた。

 

「もうだめだ。

ここで私はこいつに殺されるんだ」

 

と半ば諦めかけた時、

インターホンが鳴った。

 

その瞬間意識が途切れ、

 

目覚めると病院のベッドに寝かされ、

傍には両親がいた。

 

私が目覚めると、

 

両親は泣き崩れながら

私にすがり付いてきた。

 

話を聞くと、

 

あの日、私は41度の高熱を出して、

階段の下で昏倒していたらしい。

 

そして私が目覚めたのは、

あの日から3日も経っていた。

 

身体に異常はないけれど、

口の両端が2センチほど裂けていた。

 

まるで、

無理矢理こじ開けられたように。

 

私があの日に体験したことは、

高熱にうなされた夢だったのか。

 

それとも･･･

 

本当に私の身体を乗っ取ろうとした

何かだったのか。

 

出来れば前者であると思い込みたい。

 

（終）