金曜日の夜にバス停で待つ女 1/2

バス停

 

これは、友人から聞いた話。

 

日付や名前はフィクションという事で

聞き流してもらいたい。

 

一度目。

 

雨の金曜日。

 

彼はいつものように仕事帰りの道を

愛車で帰宅していた。

 

彼の名前は孝史。

 

仕事が長引いた事もあって、

友達との連絡を取りそびれ、

 

週末だというのに

どこにも出かけられなかった。

 

孝史はごくごく一般的な

20代後半の社会人で、

 

家に帰ればネットもするし、

男同士で集まれば、

 

女の子と飲みに行くアテはないかと

みんなで話し合う、

 

これといって目立つところのない

普通の男だ。

 

それに、

 

彼はそこまで積極的な

タイプではなかったので、

 

飲んだ勢いで複数で女の子を

ナンパする事はあっても、

 

単独で女の子をナンパするなんて、

到底出来るタイプではなかった。

 

ところが、

その日は違った。

 

帰宅途中、自宅を目前にして、

いつもと違う光景に遭遇したからだ。

 

降り続く雨の中、

 

とっくにバスが終わっている時間なのに、

女の子がベンチに座っている。

 

傘もさしていなければ、

 

ずっと俯(うつむ)いていて

誰かを待っている様子でもない。

 

まさかそんな光景に遭遇するとは

思っていなかったから、

 

当然気が付いた時には

通り過ぎていた。

 

慌ててブレーキを踏んだところで、

間に合うはずもない。

 

どうするべきか悩みながらも、

孝史は車を自宅の方向に進めていた。

 

「・・・そうだ!

 

もう一度だけあの場所を通って、

まだいるようなら声をかけてみよう」

 

自宅直前になって車をUターンさせ、

さっきのバス停の前を通る。

 

反対車線からも、

彼女が座っている事は分かるが、

 

少し距離が遠くなったせいか、

様子までは分からない。

 

通り過ぎた後、

再度Uターン出来る場所を探して、

 

今度は慎重にバス停に近づく。

 

いざ声をかけようと思うと、

結構勇気がいるものだ。

 

その上、

孝史はナンパの経験がない。

 

女の子の容姿を確かめようと、

速度を緩めてバス停に差し掛かる。

 

ずっと俯いているせいで、

顔がよく見えない。

 

特別太ってるわけでもなければ、

病的に痩せている雰囲気も無い。

 

孝史は悩んだ。

 

バス停の前で、

ほぼ停止状態になった。

 

それでも女の子はこちらの様子に

気が付くそぶりも見せず、

 

ただ黙って俯いている。

 

後続車が来ている事を気にして、

 

結局は声をかけないまま、

また通り過ぎてしまった。

 

でも、やっぱり気になる。

 

偽善者的な考え方かも知れないが、

 

「変な男に捕まったら可愛そうだ」

 

「せめて自宅まで送ってあげる

ぐらいはしてもいいはず」

 

「もしかすると財布を落として

困っているのかも」

 

などと、

様々な思いが錯綜する。

 

結局、

また自宅寸前でUターン。

 

対向車線から眺めると、

まださっきの女の子は座っている。

 

慌てて再度Uターン。

 

バス停まで気持ちが焦った。

 

そしてバス停に差し掛かった時、

状況が変わった。

 

女の子が立ち上がって、

歩き出そうとしたのだ。

 

「このタイミングを逃すと

話しかけられなくなる・・・

 

もし可愛くなくても、

ちょっと送るぐらいなら・・・」

 

色んな思いよりも先に、

 

孝史はほぼ反射的に

クラクションを二度鳴らしていた。

 

歩き出そうとした女の子は、

 

バス停に止まった孝史の車の方に

体を向け、

 

ずっと俯き加減だった顔を上げた。

 

暗くて分かり難いという要素はあるが、

孝史の目には相当可愛い女の子に見えた。

 

髪は肩ぐらいまであり、

パーマをかけていて栗毛色。

 

少し幼い感じのする顔立ちだった。

 

傘が今更無意味だとは知っていたけれど、

他にどうしていいかも分からないので、

 

女の子に向かって傘をさしかけ、

 

「こんな時間にどうしたの?

濡れるから、とりあえず車に乗りなよ」

 

と言ってみるが、

女の子は自分から動こうとしなかった。

 

助手席のドアを開け、

手を引くように車に乗せた。

 

どのくらい雨に濡れていたのか分からないが、

 

ウェーブのかかった髪からは、

絶えず水が滴っている。

 

バスタオルを渡し、

車のエアコンを強めの暖房に。

 

孝史は助手席がびしょ濡れになる事を

心配していたが、

 

今はそれよりも、

 

この女の子との展開に期待と興奮をしていて、

どうでもよくなっていた。

 

相変わらず女の子は話さない。

 

孝史は車を一旦移動して、

国道近くの交通量の少ない場所に止めた。

 

ナンパをした事も無い自分の車の助手席に、

ずぶ濡れの女の子が座っている。

 

今はもう、心配するとかよりも、

この女の子に対する興味で一杯だった。

 

服が濡れているせいで、

 

身体のラインがはっきりと分かる事にも

気が付いた。

 

ブラウス越しには

淡い色の下着が透けている。

 

この状況でも孝史は女の子に

無理矢理襲いかかれるタイプではないし、

 

とにかく女の子の話を聞くべきだと思った。

 

「人をね、待ってたの・・・」

 

強めの暖房と湿気で

車の窓が真っ白になった頃、

 

やっと話し始めた。

 

名前は美奈。

 

21歳でフリーター。

 

実家に住んでいる。

 

「もうこの時間から家に帰れない・・・」

 

孝史が次の展開を

期待してしまうような一言が、

 

美奈の口から出た。

 

「うちに呼ぶわけにもいかないし、

濡れた服も乾かさないと。

 

どうする?

 

どこかに入った方が

ゆっくり出来ると思うけど」

 

そう言いながら、

 

もちろん孝史の頭の中は、

ラブホに連れ込む事しかなかった。

 

「何にしても服を乾かさないとね」

 

などと偽善者的ないい訳を並べながら、

目的地は国道沿いのラブホだった。

 

部屋に入ってから孝史は美奈に、

お風呂に入る事を勧めた。

 

ほどよく細い身体のラインといい、

顔立ちの幼さも孝史の好みに合っていた。

 

お風呂上がり、

 

美奈は何の躊躇もなく

バスタオル一枚で出てきた。

 

脱いだ服どころか、

下着までが洗面所に干してあるのが見える。

 

身体が冷えているだろうから、

とベッドに入る事を勧めながら、

 

孝史も寄り添うように隣で横になる。

 

特に嫌がるそぶりもないし、

 

孝史は「これならいける!」、

そう思った。

 

暖める事を口実にするように抱きしめ、

バスタオル越しに感触を味わった。

 

ここで抵抗されないと、

もう歯止めが利くはずもなく、

 

バスタオルを剥ぎ取った後は

予想通りの展開になっていた。

 

積極的ではないものの、

 

ほどよく火照った身体と、

我慢するような吐息。

 

孝史は自分の欲望を、

美奈に思い切りぶつけた。

 

そのまま朝を迎え、

 

孝史は美奈を最初のバス停まで

送る事になった。

 

お互いに連絡先を交換した訳でもなく、

孝史にとっては一夜限りの幸運・・・

 

のはずだった。

 

(続く)金曜日の夜にバス停で待つ女 2/2

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