兄が連れて来た12歳年上の婚約者 2/3

水子地蔵

 

祖母と二人で耳を澄ませて、

 

台所の様子を伺いながら

数分が経ったと思います。

 

さらにガヤガヤとうるさくなりました。

 

祖母がそっと起き上がり、

 

屈みながら台所のガラス戸の

ところまで行きました。

 

私も祖母の後を追い、

 

ハイハイするような格好で、

ガラス戸のところまで行きました。

 

祖母が数センチ、

そっと戸を開けました。

 

すると・・・

台所に6人子供がいて、

 

そのうち大きな子2人が楽しそうに、

 

テーブルにお皿やらコップやらを

セッティングしていました。

 

年の頃は、

小さい子で3歳くらいから。

 

大きい子で8~10歳くらい

だったと思います。

 

いきなり祖母が立ち上がり、

ガラス戸を思いっきりガラっと開け、

 

「あんたたち、どこの子ね?

夜中によその家で何しとるね?

 

どこから入った?」

 

と大きな声で言いました。

 

子供達はギロっと祖母と私を睨むと、

スーっと消えてしまいました。

 

祖母の声で、祖父と両親、

それに兄夫婦が起きてきました。

 

私は兄に、

 

「子供が6人台所にいて消えた」

 

と言いました。

 

最初は皆口々に、

 

「寝ぼけたんだろ」とか、

「夢でも見たんじゃないの?」と言い、

 

信じてくれませんでした。

 

しかし朝になって、

 

台所の食器棚とテーブルの上に

置かれたコップに、

 

無数の大きさの違う子供の手の跡が

残っているのを発見し、

 

皆、私と祖母の話を信じてくれました。

 

朝食の後、私はMちゃんに、

 

「たっちゃんの絵を描いて」

 

と言いました。

 

Mちゃんはお気に入りのクレヨンセットで、

チラシの裏に絵を描き始めました。

 

「たっちゃんだよ」

 

と、出来上がった絵をMちゃんは、

誇らしげに私に見せました。

 

その絵を見て、ハッとしました。

 

Mちゃんが描いた、

たっちゃんが着ていたTシャツの色。

 

青いTシャツ・・・

 

昨夜、台所にいた子供達の中に、

 

Mちゃんより1~2歳年上だと

思われる男の子が、

 

青いTシャツを着ていたのです。

 

そういえば・・・

 

真冬なのに子供達は皆、

真夏の格好をしていたのを思い出しました。

 

祖母にMちゃんの描いた絵を見せ、

台所にいた子供達の服装のことを訊くと、

 

服装や顔までは覚えていない、

と祖母は言いました。

 

でも、最後に子供達が私たちを

睨んだ目は覚えていると。

 

「なんだか気味が悪かったよ。

全員死んだ魚のような目だった」

 

それから数週間が過ぎ、

 

兄夫婦の家であったことも

忘れかけた頃のことです。

 

会社帰りに同僚と、

近くのデパ地下へ寄りました。

 

エスカレーターで地下へ下りている最中、

 

後ろからふくらはぎに何かを刺されたような

鋭い痛みを感じ、

 

振り返ると私のすぐ後ろのステップに、

 

5歳くらいの男の子が焼き鳥の串を手に持ち、

しゃがんでいました。

 

私と目が合うとニヤっと笑い、

もう一度ふくらはぎに串を刺しました。

 

「何してるのよ!痛いじゃない!」

 

と男の子に言うと、

同時にエスカレーターは地下に着きました。

 

子供の親に一言言ってやろうと、

 

私はエスカレーターを下りた場所で

止まりました。

 

後から後から人が下りてきて、

 

時間帯も混雑している時だったので、

子供を見失ってしまいました。

 

ふくらはぎを見ると、

少し血が出ていました。

 

気を取り直して、

 

同僚と試食品などを食べながら

地下を回っていると、

 

視界にちょこちょこと、

さっきの子供が入ってくるのに気づきました。

 

振り向くと、子供はいません。

 

何度となくそのようなことがあり、

 

パン屋さんの前に来た時、

また子供が視界に入りました。

 

私は気づかないフリをしながら、

視界の角に映る子供を目で追いました。

 

子供がだんだんと私に近づいて来ました。

 

私はパン屋さんの壁に

鏡が掛かっているのを見つけ、

 

鏡の斜め前に立ちました。

 

鏡に子供が映った瞬間、

一旦、目を逸らし、

 

そのまま勢いをつけて、

後ろを振り返りました。

 

するとそこには、

 

さっきの子供が右手に串を持ち、

立っていました。

 

私はその子の腕を掴んで、

 

「あんた、

大人をバカにしてるんじゃないよ。

 

親はどこにいるの?」

 

と凄みました。

 

すると、

 

子供の力とは思えないほどの力で

私の手を振り解き、

 

走って逃げて行きました。

 

同僚にどうしたのかと訊かれ、

子供のことを話したら、

 

どんな子供か訊かれました。

 

そういえば・・・

 

子供は半ズボンに、

白いランニングシャツを着ていました。

 

デパートの中とはいえ、

真夏の格好。

 

私はクリスマスの出来事を思い出しました。

 

次の日の朝、

 

出勤途中に私は階段から誰かに

突き落とされました。

 

幸い、残り3段くらいだったので、

怪我はありませんでした。

 

その日の昼2時過ぎ、

 

上司から頼まれて書類を取引先へ届け、

オフィスに戻る最中のことです。

 

勤めている会社のエレベーターの中には、

私一人でした。

 

ドアが閉まる寸前で誰かが外のボタンを押し、

またドアが開きました。

 

すると・・・

 

夏服を着た子供達6人が、

一気にエレベーターに乗り込んで来ました。

 

私は突然のことで言葉を失いました。

 

エレベーターのドアが閉まりました。

 

子供達は祖母と私を睨んだ目で、

ジリジリと私に近づいて来ました。

 

私は恐怖で声が出ませんでした。

 

(続く)兄が連れて来た12歳年上の婚約者 3/3

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