尋常ではない二つの奇妙な声

犬 死骸

※この話にはグロテスクな表現(描写)が一部含まれています。閲覧の際にはご注意ください。

 

あれは、

俺が小学生の頃だった。

 

その頃の俺は、

川釣りをしょっちゅうやっていて、

 

その日も放課後に友達と二人で

釣りに行く約束をしていた。

 

家に帰って適当に仕掛けを作っていると、

 

友達が迎えに来たので、

近くの川へ向かって畦道を歩き始めた。

 

程なくして川へ着き、

釣り糸を垂らし始めた。

 

なんのことはない、

いつもの小物釣りだ。

 

1時間ほど釣りをした頃だろうか。

 

さっき通って来た道から、

妙な声が聞こえてきた。

 

最初は気にもならないくらいの

小さな音だったんだけど、

 

段々とそれが何かの鳴き声だと

分かってきた。

 

『ガボォ!ガボォ!』

『グワァグァ』

 

どうやら、

二つの生物のようだ。

 

声から片方はカラスだと分かった。

 

尋常ではないその声に、

少し心拍数が上がってきた頃、

 

「なぁ、なんか聞こえるよな?」

 

と友達はコンクリートブロックから

立ち上がって、

 

その方向を見ながら尋ねてきた。

 

やはり気付いていたようだ。

 

「見に行こ!」

 

そう誘われたが、

 

得体の知れない声が怖くて、

行く気にはなれなかった。

 

「あの辺ならさ、

 

どうせ帰る時に通るから、

いいよ、まだ」

 

明らかに声が上ずっていた。

 

渋る友達をなんとか座らせ、

また釣りをし始めると、

 

いつの間にか声は途切れていた。

 

日も傾き、

そろそろ帰ろうということになり、

 

二人で斜陽の中を歩き始めた。

 

そう、あの方角へ。

 

川の土手に差し掛かった辺りだろうか。

 

土手の上へと続く道の中腹に、

白いモノが落ちているのが見えてきた。

 

来る時にはなかったものだ。

 

ビニール?

 

最初はそう思った。

 

少し近づく。

 

ぬいぐるみ?

 

耳もあるし、尻尾もある。

 

「なんだ、ぬいぐ・・・」

 

そう言いかけた時、

横にいた友達が呟いた。

 

「犬だ」

 

「犬?・・・犬だ。ホントだ犬だ」

 

さらに近づくが、

犬は全く動かない。

 

寝ているのだろうか?

 

・・・にしてはおかしい。

 

そして、

土手に植わっている木が太陽を遮り、

 

前方の視界が鮮明になった瞬間、

目の前の状況が一気に理解できた。

 

血だ。

 

鮮血、乾燥したドス黒い血。

 

白い犬の下から染みだし、

腹の毛が真っ赤に染まっている。

 

その中の特に黒くなっている部分から、

 

臓物が力なく広がるように、

地面へと飛び出していた。

 

動けなかった・・・

 

二人して棒のように突っ立って、

 

ただそれを・・・

有り得ない光景を見つめていた。

 

10秒ほど経った頃に、

ようやく俺が口を開いた。

 

「行こ」

 

犬の骸を見ないように意識しながら、

足早にその場を後にした。

 

しかし、

俺は骸とすれ違いざまに、

 

変な視線を感じ、

振り向いてしまった。

 

そこには目玉のない犬の顔が、

こちらを見ていた。

 

目が無いはずなのになんで?

 

半開きになった口に、

黒い二つの穴がこちらを見ている。

 

立ち去る足が一段と速くなった。

 

やがて土手を下り、

 

小さな橋に差し掛かった辺りで、

友達が口を開いた。

 

「あの声、あいつだよな」

 

「うん」

 

「すごい声だったよな」

 

「助けてほしかったんかな」

 

「かもな」

 

それ以上、

会話は続かなかった。

 

友達と別れて家に帰り、

 

明日の時間割りを準備し、

寝床に入ってもまだ、

 

今日の出来事を反復してしまい、

なかなか寝付けなく苦労した。

 

あの声とあの光景は、

今も頭から離れない。

 

(終)

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