叔父さんと山を登ると必ず幽霊に出会う
数年前の事になるが、高校で友達だった村井(仮名)が九州へ里帰りするのに同行した。
村井は家族で山登りが好きで、九州に住んでいる叔父さんもベテラン登山家だ。
今回の里帰りは、その叔父さんとの九重連山の登山が目的で、写真好きな俺は撮影目的で一緒に連れて行ってもらった。
直感で「この人はヤバイ」と感じて
行き道の電車の中で、村井から登山に関する決まり事などをレクチャーされた。
小便の仕方や、すれ違う他の登山者への挨拶の仕方などを聞かされ、「先頭は俺が行くので同じ様にすれば良い」と教えられた。
また村井は、「俺が挨拶せずに下を向いている時は、気を付けて同じようにして」とも言った。
意味がよく分からなかったが、俺達は叔父さんと合流し、先頭は村井、次が俺、最後尾に叔父さんの隊形で、登山者とすれ違うと「こんにちは~」と先頭の村井が挨拶する。
俺もそれを真似て挨拶していた。
二組くらいとすれ違い、気が付くと前方から明らかに雰囲気が違う登山者が降りてくるのが見えた。
上手く言えないのだが、その人は黒かった。
灰色っぽいと言うべきか・・・。
直感で「この人はヤバイ」と感じて、俺の心臓はバクバクする。
すぐに村井が振り返り、俺に目で合図をした。
村井は下を向いたまま、黙々と同じペースで歩く。
すれ違いざまに、見てはいけないと分かっていながら横顔をちらりと見たのだが、その人の顔は灰色で、周りがモノトーンな感じがした。
俺は怖くなり、半目を開けながら足早に前を行く村井に追い付こうと必死で歩いた。
だが、少し離れた最後尾の叔父さんは違った。
ボソッと一言、何かを言ったのが聞こえた。
俺は村井に追い付き、汗だくになった俺を見た村井は足を止め、二人で後ろを振り返る。
すると、見えるのは叔父さんだけで、すれ違ったばかりのその登山者は消えていた。
ニコニコしながら叔父さんは俺達に追い付くと、「出たね(笑)。もう大丈夫」と言った。
俺は、「な、何か言ってましたよね?」と訊くと、叔父さんはポケットから数珠を取り出して、「うん。これ持ってね、成仏して下さいとね」と。
実は、叔父さんは霊感が強くてよく見るらしいのだが、山で亡くなり彷徨っている登山家を不憫に思い、とある高名なお坊さんにお願いをして毎年その数珠にお経を唱えてもらっているという。
村井は、「叔父さんと登ると必ず会うんだよ」と笑う。
山の男は精神が強いな、と俺は思った。
(終)