Kとの出会い 2/3

「・・・何?」

 

K「何って、ただの簡単な質問だって。

オカルトを信じるか、そうでないか。

 

あなたは地動説を信じますか、

ってな質問と同じレベルだろ」

 

僕は、すぐには答えられなかった。

 

質問の意図が分からなかったから

と言うのもあるが、

 

それ以上に、

 

口元は笑っていたが、

Kは至って真面目に、真剣に、

 

この質問を僕にぶつけた。

 

それが伝わって来たからだ。

 

僕の回答を待たず、

Kが口を開く。

 

K「『その箱が本当に内側から

鍵をかけられているのか』ってのは、

 

まあ○○(僕の名前)の立場からすれば、

考え方、まー可能性だな、

 

は三つあらーな」

 

Kが両腕を前に出す。

 

右手はピース、

左手は人差し指だけ立てて。

 

K「まーず、一つ。

俺が嘘をついている。

 

こりゃ簡単。

 

箱は糊づけでもされてて、

中には石コロなんかが入っている。

 

ま、無難な考えだ」

 

Kの右手の中指が下がる。

両手共に残っているのは人差し指。

 

残り二つ。

 

K「そんで二つ目。

 

確かに内側から鍵は

掛かっているのだけど、

 

何らかの現実的な方法・手段を

用いて俺がそうした。

 

ま、ミステリの密室トリックみたいな

感じだなこれ」

 

僕は何か言おうとした。

しかしKがそれを制して言う。

 

K「ただし、だ。

 

前提としてだな、その箱は、

箱部分とフタ部分の二パーツだけ。

 

んでもって、その二つのパーツは、

一つの材木から削り出されてる。

 

見てみな。

つなぎ目、無いだろ?」

 

「じゃあ、蝶番は・・・」

 

K「おっと、良いとこつくな。

でも残念。

 

蝶番はネジ止めされてるんだが、

 

ネジは箱の内側に

ナットで止められてんだ。

 

意味分かるよな?」

 

それはつまり、

箱の内側の

 

『南京錠に鍵を掛けて鍵も中に入れてから、

蝶番を取り付けて密室を作りだす』、

 

それが出来ないということ。

 

K「二つ目の可能性は、

 

そこを踏まえてなお、

俺が細工をした、っていうことだ。

 

ここまで、二つは理解出来たな?

よし。おーけーおーけー」

 

Kが立てている指が、

 

いつの間にか左手の

人差し指だけになっている。

 

K「じゃ、最後だ。

 

最後の可能性は、

ここまでの俺の話は全部本当で、

 

鍵を入れて箱を閉めた後、

『何かが、箱の中で、鍵を掛けた』」

 

Kの左手の人差し指が、

僕の手の中にある箱を指す。

 

ことり、と箱の中で音がした。

 

「・・・だとしたら、その『何か』は、

まだ箱の中に居ることにならないか?

 

なるよな?うん・・・」

 

片手で持ててしまうくらいに

小さな箱の中。

 

その中に、鍵を掛けてしまえる

何かが存在する。

 

常識的に考えれば、あり得ない。

 

しかし、

 

今の僕の口からは何故か、

その『ありえない』という

 

五文字の言葉が出てこなかった。

 

K「もう一度聞こうか。

『○○は、オカルトを信じるか?』」

 

Kが先程の質問を繰り返す。

 

K「答えがNOなら、

その箱、無理やり開けてみな。

 

蝶番はネジ止めになってるから、

そこのナイフでも使えばいけるだろ。

 

石コロが入ってるかもな。

・・・しかしだ。し、か、し」

 

ずい、とKがこちらに一歩近づき、

僕は思わず一歩下がる。

 

K「その時、もし、箱の中に

 

止められた南京錠と

その鍵が入っていたら、

 

・・・どうなる?」

 

どうなる。

 

鍵が入っていたら、

どうなる。

 

僕はその状況を想像してみるが

上手くいかない。

 

ナイフで蝶番を壊し、

開けた箱の中身、

 

そこには靄が掛かっている。

 

まるで浦島太郎の玉手箱だ。

 

僕は目を瞑った。

 

暗闇の中でイメージするは、

よりリアルになる。

 

箱の中の靄が徐々に晴れて行く。

 

雑音が消えた。

靄が晴れる。

 

箱の中には、

 

内側に掛けられた小さな南京錠と、

小さな鍵が一つずつ。

 

その瞬間、足元が崩れ、

僕の中の世界は壊れた。

 

刹那の落下の感覚。

 

それが僕を想像の中から

現実の世界に引き戻した。

 

目の前にはKが居て、

 

腰に手を当てニヤニヤ笑いながら

僕のことを見ていた。

 

僕は僅かに高まった動悸が

鎮まるのを待って、

 

一つ大きく息を吐いた。

 

「・・・箱は開けない。

 

オカルトを信じるも信じないも、

僕には分からないよ」

 

手にしていた箱を

テーブルの上に置く。

 

するとKが噴き出した。

笑う。「うはは」と。

 

今までで一番大きな笑い声だった。

周りのみんながこちらを見る程に。

 

呆気にとられた僕は、

 

ぽかんと口を開けて

Kを見つめていた。

 

(続く)Kとの出会い 3/3へ

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