Kとの出会い 1/3

大学に入学して間もない頃、

 

僕は学科の新入生歓迎会を通じて、

とある面白い男と知り合った。

 

そいつは名をKと言って、

人懐っこくて陽気な男だった。

 

正直なところ、

僕は小中高と友達が極端に少なく、

 

だから大学生活が始まって早々、

Kと言う友人が出来たことが

 

素直に嬉しかった。

 

歓迎会は、街の中心にある

市民ホールみたいなところのワンフロアを

 

貸し切って行われていた。

 

まるで身に入らない

学長の話が終わった後、

 

当然ながらすでに仲良くなった者同士が

グループで固まっていて、

 

僕とKはフロアの隅の方で、 

しばらくの間、

 

二人だけで話をしていた。

 

しばらく、

 

「出身地は何処か」とか、

「趣味は何か」など、

 

取り留めも無い話をしていた。

 

そして、そんな話題も

ひと段落した頃。

 

Kがおもむろに、

 

K「あ、そーだそーだ。

見せたいものがあんだけどよ」

 

と言って、

 

傍に置いていた自分のバッグから

何かを取り出した。

 

Kが取り出したのは、

立方体の形をしたナニカだった。

 

大きさは一辺が十センチ程度、

 

両親が結婚指輪を入れている箱よりは、

一回りほど大きいといったところだ。

 

Kはそれを僕の傍ら、

 

料理を並べている

テーブルの上に置いた。

 

K「さて、ここで一つ質問。

こいつは一体、何だと思う?」

 

箱を指差して、

Kは僕に尋ねる。

 

質問の意図がイマイチ

良く分からなかったが、

 

僕はとりあえずその塊を

一通り眺めてみる。

 

上部に周囲を一周する切れ目と、

 

一つの面に可愛らしい蝶番が

二つ付いていたこので、

 

これは箱なのだと見当付ける。

 

材質は木製のようで、

木目以外の模様は見えなかった。

 

「・・・えーと、箱、だと思う。

木の箱」

 

と僕が答えると、

Kは満足そうに

 

K「おーけーなるほど」

 

と言った。

 

K「正解だ。んじゃ、

それ手に取ってみて」

 

言われた通り、

僕は箱を手に取る。

 

その時、ことり、と箱の中から

僅かに音が漏れた様な気がした。

 

K「開けてみ?」

 

僕はフタの部分を手で押さえ、

箱を開けようとした。

 

「・・・あれ?」

 

開かない。

 

少し力を込めてみる、が

やっぱり開かない。

 

どころかいくら力を入れても、

 

箱とフタの間に

僅かな隙間も作れなかった。

 

「開かないよ?」

 

するとKは面白そうに「うはは」と笑い、

僕はちょっとムッとする。

 

K「まー開かねーだろうな。

だってそれカギ掛かってっから」

 

「鍵?」

 

言われて僕は、

改めて箱を見直してみる。

 

そんな鍵が付いている様には

見えなかったけどなあ、

 

なんて思いながら、

 

もう一度、

四方八方360度見てみたが、

 

やっぱり鍵穴なんて

何処にも見当たらなかった。

 

「鍵穴も、何も見えないけど・・・」

 

するとKはさらに「うははは」と笑い、

僕はさらにムッとする。

 

K「ワリー、ゴメンゴメン。でもな、

本当、鍵はちゃんと掛かってんだよ。

 

親指くらいのちっちぇ南京錠だけどよ」

 

「でも、」

 

K「まあ聞けよ。

 

鍵はな、外側からじゃなくて、

内側から掛かってるんだ」

 

「・・・え?」

 

一瞬、

 

頭の全細胞が急ブレーキをかけて

動くのを止めたかの様に、

 

僕の思考がストップした。

 

ただしその停滞は

気のせいかと思う程短く、

 

一秒かからず回復し、

 

僕の脳細胞は再び

自分たちの仕事を再開する。

 

「それはおかしいよ。

 

箱を閉じた状態で、

内側から鍵はかけれない」

 

K「まーそらそうだな。

 

つっても俺からは、

『内側からカギが掛かってる』って、

 

それしか言えないわけだが・・・。

なあ、箱、振ってみ」

 

数秒躊躇してから、

僕は箱を軽く振ってみる。

 

コツ、コツ、と中で音がする。

何かが入っているようだ。

 

K「音がすんだろ。

そいつが箱の鍵だ」

 

鍵の掛かった箱の中に、

その鍵がある。

 

あくまでもKは、

 

内側からカギを掛けたのだと

言い張るつもりのようだ。

 

僕は僅かな時間、 

箱を見つめて、

 

それからKを見やった。

 

「でさ。この箱を僕に見せて

どうしようって言うん?

 

なんか理由が分からんのだけど・・・」

 

Kがまた「うはは」と笑う。

 

どうやらこの笑い方は、

彼のクセらしい。

 

ふとKの笑い声が止んだ。

 

そして間を置かず、

 

口元に笑みの跡が残ったまま

彼はこう言った。

 

K「○○(僕の名前)は、

オカルトを信じるか?」

 

沈黙。

 

僕の頭はまたもや、

フリーズしていた。

 

気のせいじゃない。

 

今度ははっきりと、

たっぷり十数秒。

 

(続く)Kとの出会い 2/3へ

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