Kとの出会い 3/3

K「うはははははっ、

・・・あーいやー、ワリーワリー。

 

はは、ゴメン。

いや、やっぱお前おかしいよ。

 

おかしいだろ?

ふつー開けるだろ?

 

はっ、うははは。

 

分からないから開けたくないって、

マジかよ、はっは・・・」

 

よほどおかしかったのか、

Kは腹を抱えて笑っている。

 

僕がこいつ今日初めて話したんだけど、

殴ろうかどうしようか真剣に迷っていると、

 

ようやくKの笑い地獄は収まった。

 

K「あー、久々に笑ったわ。

 

いや、マジごめん。

悪気は無いんだって。

 

ただ、予想外の答えで

面白かったからよ」

 

Kが箱を手に取る。

 

K「俺よー。

 

なんか自分と気が合いそうな奴みつけたら、

この箱見せんだけどよ。

 

さっきみたいに話しながらさ。

そんで相手に訊くんだ。

 

『オカルトを信じるか否か、

箱を開けるか否か』ってな。

 

・・・でもみんな結局は、

箱を開けるって言うんだよな」

 

話しながらKは箱を回転させたり、

軽く上に放ったり、

 

色々弄んでから、

 

箱の底部分に左手を、

フタの部分に右手を添えた。

 

K「そう言う時は

ネタばらしをすんだけど、

 

『ごめんごめん。全部俺の嘘でした』

っつってさ。

 

箱を取り返して、

そいつとは縁を切る」

 

「・・・、え?」

 

K「だーかーら、

実際に箱を開けて見せるのは、

 

お前で二人目だな、うん」

 

何かを問う暇もなかった。

 

Kが「んよっ、」と、

妙な掛け声で気合いを入れると、

 

箱の蓋がまるでルービックキューブの

一列だけ動かす時の様にスライドした。

 

「え、え~・・・?」

 

そのままKは、

 

箱の蓋をジャムの瓶からフタを取るがごとく、

くるくると回す。

 

数回転するとフタは箱から外れた。

途端に箱の中から何かが飛び出した。

 

が、それはバネによって飛び出してきた、

白い紙人形だった。

 

紙人形は人魂のような形をしていて、

 

足が無く、

両手にプラカードを持っている。

 

そこにはこう書かれていた。

 

『Welcome to Occult World!!』

 

「オカルトの世界へようこそ~!」と、

親切にもKが訳してくれる。

 

見ると、蓋の方に蝶番が

二つともくっ付いていた。

 

あれは最初から箱の方には

固定されてなかったのだ。

 

やられた、

僕は騙されたのだ。

 

K「・・・ハナから嘘だと

思ってるよーな奴に、

 

ホンモンは見えねーんだよ。

 

・・・あ、ちなみに箱の中で

音出してたのは、石コロな」

 

そう言ってKは「うはは」と笑う。

 

けれど、そこには嫌味だとか、

そういった感情は何一つ見えなかった。

 

再び蓋を閉じ、

 

箱を元に戻したKが

右手を僕の方に差し出す。

 

K「握手」

 

僕はたっぷり躊躇って、

恐る恐るその手を握った。

 

上下左右に振り回される。

痛い痛い。

 

K「・・・お前、あの最初の挨拶で、

 

学長のナナメ後ろに居た奴、

・・・見えたろ。

 

一人だけ全然違う方向

見てたからよ」

 

手を握ったまま、

Kがぽつりと呟いた。

 

その言葉に、

ああそうかと納得する。

 

だからKは僕なんかに

話しかけたのだ。

 

僕が話をする学長の後ろ、

ここのホールに居る『気配』 に

 

気付いていたから。

 

「見えては無いよ。

・・・なんか居るなー、くらい」

 

K「上等上等。

 

うはは、ま、そんなわけでさ。

これからよろしくな。

 

なんかお前とは長い付き合いに

なりそうだし」

 

何時の間にか『○○君』から『お前』に

なっているのはまあ良いとして、

 

それにしても、と僕は思う。

 

小中高と友達が居なかった

一番の『原因』が、

 

大学生になってすぐ友達が出来る

きっかけになるとは。

 

世の中というものは

分からないものだ。

 

K「ところでよ、週末、

 

街の北西にあるっていう

廃病院行くんだけど、

 

来るよな」

 

「え?・・・いや、僕、

まだ足が無いから・・・」

 

K「大丈夫だって。

 

今日は『面倒くせえ』つって

来てないけど、

 

Sっていう俺のマブダチが

車持ってっからよ。

 

な、行こうぜ」

 

後に、このSとも僕は

強烈な出会いをすることになるのだが、

 

それはまた別の話。

 

気が付くと僕は

廃病院行きを了承していた。

 

この日、うっかり

 

Kの友人になってしまったことが

きっかけで、

 

僕は大学生活の中で

様々な体験をすることになる。

 

まあその時はそんなこと

知る由も無いのだがけども。

 

ただ、

 

何だか面白いことになりそうだな、

という漠然とした予感があったことだけは、

 

はっきり覚えている。

 

それは、僕にとって今までに

感じたことのない光。

 

やはりKは嘘ツキだった。

 

鍵は、ちゃんとあの箱の中に

入っていたのだ。

 

(終)

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