呪う女 12/18

玄関先から、

「オマエーっ!チクショー!

オマエまで私を苦しめるのかー!」

 

と凄い叫び声が聞こえ、

足がすくんだが、

 

父が俺の肩を抱き、二人の警官に

取り押さえられた『中年女』の前に

俺は立った。

 

俺は最初、恐怖の余り、

自分の足元しか見れなかったが、

 

父に肩を軽く叩かれ、ゆっくりと

視線を『中年女』に向けた。

 

両肩を二人の警官に固められ、

地面に顎を擦りつけながら、

『中年女』は俺を睨んでいた。

 

相当暴れたらしく、髪は乱れ、目は血走り、

野犬の様によだれを垂れていた。

 

「オマエー!オマエー!

どこまで私を苦しめるー!」

 

訳のわからない事を『中年女』は叫び、

ジタバタしていた。

 

それを取り押さえていた警官が、

「間違いない?

山にいたのはコイツだね?」

 

と聞いてきた。

 

俺は中年女の迫力に押され、

声を出すことが出来ず、無言で頷いた。

 

警官はすぐに手錠をはめ、

「貴様!放火未遂現行犯だ!」

と言った。

 

手錠をはめられた後も、ずっと

奇声を発し暴れていたが、警官が

二人がかりでパトカーに連行した。

 

そして一人だけ警官がこちらに戻って来て、

「事情を説明します」

と話し出した。

 

「自宅前をパトロールしてると、

玄関に人影が見えまして、

あの女なんですけど・・・

 

しゃがみ込んで、ライターで

火をつけていたんですよ。

玄関先に古新聞置いてますよね?」

 

「いえ、置いてないですけど・・・?」

 

「じゃあ、これもあの女が用意

したんですかねー?」

と指差した。

 

そこには新聞紙の束があった。

 

確かに、うちが取っている

新聞社の物では無かった。

 

警官が「ん?」と何かに気付き、

新聞紙の束の中から何かを取り出した。

 

木の板。

 

それには『○○○焼死祈願』と、

俺のフルネームが彫られていた。

 

俺は全身に鳥肌が立った。

やはり俺の名前を調べ上げていたんだ。

 

もし警察がパトロールしていなかったら・・・

と、少し気が遠くなった。

 

母は泣き出し、俺を抱きしめて

頭を撫で回してきた。

 

警官はしばらく黙っていたが、

「実はあの女・・・

少し精神的に病んでまして・・・

○○町に住んでいるんですけど、

結構苦情・・・まぁ、同情の声

というのもあるんですがねぇ・・・」

 

と、中年女の事を語り出した。

 

 

「あの女、1年前に交通事故で、

主人と息子を亡くしてまして・・・それ以来、

情緒不安定と精神分裂症というか・・・

まぁ近所との揉め事なども出始めましてね。

 

山で発見された少女の写真で、

あの女の特定は出来ていたんですよ。

 

二年前の交通事故・・・

あの少女が道路に飛び出してきて、

ハンドルをきって壁に衝突。

それで主人と息子が亡くなったんですよ・・・

 

飛び出した少女は無傷で助かったんですが、

以来、あの少女の家にも散々嫌がらせを

しているんですよ。

 

ただ事故が事故なだけに、少女の家からは

被害届けは出てないんですが・・・

あの少女を相当怨んでいるんでしょうね・・・」

 

俺はその話を聞き、同情などは

一切出来なかった。

 

むしろ、『中年女』の執念深さが

ヒシヒシと伝わってきた。

 

何よりも、警官も認める

情緒不安定に精神分裂症。

 

これでは、すぐに釈放になるのではないか?

 

釈放後、また『中年女』の存在に怯え、

生きていかなければならないのか?

 

警官の話を聞き、安堵感よりも

絶望感が心に広がった。

 

それから5年。

 

俺、慎、淳は、

それぞれ違う高校に進んでいた。

 

俺達はすっかり会うことも無くなり、

それぞれ別の人生を歩んでいた。

 

もちろん、『中年女』事件は忘れることが

出来ずにいたが、恐怖心はかなり薄れていた。

 

そんな高一の冬休み、久し振りに淳から

電話がかかってきた。

 

『おう!ひさしぶり!』

 

そんな挨拶も程ほどに、

『実は単車で事故ってさぁ・・・

足と腰骨折って入院してんだよ』

 

「え?!だっせーな!どこの病院よ?

寂しいから見舞いに来いってか?」

 

『まぁ、それもあるんだけどさぁ・・・

お前、『中年女』の事って覚えてる?

事件の事じゃなくってさぁ・・・

顔、覚えてる?』

 

「何で?何だよ急に!」

 

『毎晩、面会時間終わってから・・・

変なババァが、俺の事を覗きに来るんだよ、

・・・ニヤつきながら』

 

淳の発した言葉を聞いたとたんに、

『中年女』の顔を鮮明に思い出した。

 

初めて出会ったあの夜の、

歯を食いしばった顔。

 

下校時に出会った、

いやらしいニヤついた顔。

 

自宅玄関で見た、

狂ったような叫び顔。

 

あれから忘れる努力をしていたが、

決して忘れることの出来ないトラウマだった。

 

俺は淳に、

「何言ってんだよ?!もう忘れろ!

ほんっとオメーって気が小せぇーなぁ?!」

 

と答えた。

自分自身にも言い聞かせるように。

 

『そーだよな・・・いや、こーゆーとこって、

妙に気が小さくなるんだよ!』

 

「そーゆーとこ、変わってねーな!」

 

と余裕を見せた。

俺自身も、あの日のまま成長していないが。

 

そして入院している病院を聞き、

「近いうちにエロ本持って

見舞いに行くよ!」

 

と言い電話を切った。

 

(続く)呪う女 13/18へ

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