四隅 3/4

手

 

夢の中で、

 

異様に冷たい手に右肩を掴まれて

悲鳴を上げたところで、

 

次の日の朝だった。

 

京介さんだけが起きていて

あくびをしている。

 

「昨日、起ったことは、

京介さんはわかってるんですか」

 

朝の挨拶も忘れてそう聞いた。

 

「あの程度の酒じゃ、

素面も同然だ」

 

※素面(しらふ)

酒に酔っていない、ふだんの状態。

 

ズレた答えのようだが、

 

どうやら『わかってる』と

言いたいらしい。

 

俺はノートの切れ端に、

シャーペンで図を描いて考えた。

 

———————————-

A)CoCo   B)京介

D)みかっち  C)俺

———————————-

 

そして、

 

ゲームが始まってから起ったことを

すべて箇条書きにしていくと、

 

ようやくわかってきた。

 

酒さえ抜けると難しい話じゃない。

 

これはミステリーのような

大したものじゃないし、

 

正しい解答も一つとは限らない。

 

俺がそう考えたというだけのことだ。

 

でもちょっと想像してみて欲しい。

 

あの闇の中で何が起こったのか。

 

1、時計

2、時計

3、時計

4、反時計

5、時計

6、時計

7、時計

8、時計

9、時計

10、時計

 

・・・

 

俺が回った方向だ。

 

そして3回目の時計回りで、

俺はポケットに入った。

 

仮にAが最初のスタートだったとしたら、

時計回りなら1回転目のポケットはD。

 

そして同じ方向が続く限り、

2回転目のポケットはC。

 

3回転目はB、

と若くなっていく。

 

つまり同一方向なら、

 

必ず誰でも4回転に一回は

ポケットが来るはずなのだ。

 

とすると、

 

5回転目以降の時計回りの中で

俺にポケットが来なかったのは、

 

やはりおかしい。

 

もう一度、図に目を落とすと、

 

3回転目で俺がポケットだったことから

逆算する限り、

 

最初のスタートはBの京介さんで、

時計回りということになる。

 

1回転目のポケットと、

2回転目のスタートはCoCoさんで、

 

2回転目のポケットと、

3回転目スタートはみかっちさん、

 

そしてその次が俺だ。

 

俺は方向を変えて反時計回りに進み、

 

4回転目のポケットと、

5回転目のスタートはみかっちさん。

 

そしてみかっちさんは、

また回転を時計回りに戻したので、

 

5回転目のポケットは・・・俺だ。

 

俺のはずなのに、

ポケットには入らなかった。

 

誰かがいたから。

 

だからそのまま時計回りに回転は続き、

そのあと一度もポケットは来なかった。

 

どうして5回転目のポケットに

人がいたのだろうか。

 

『いるはずのない5人目』

 

という単語が頭をよぎる。

 

あの時みかっちさんだと思って

遠慮がちに触った人影は、

 

別のなにかだったのか。

 

「ローシュタインの回廊ともいう」

 

京介さんがふいに口を開いた。

 

「昨日やったあの遊びは、

黒魔術では立派な降霊術の一種だ。

 

アレンジは加えてあるけど、

 

いるはずのない5人目を

呼び出す儀式なんだ」

 

おいおい。

 

降霊術って・・・

 

「でもまあ、

 

そう簡単に降霊術なんか

成功するものじゃない」

 

京介さんはあくびをかみ殺しながら、

そう言う。

 

その言葉と、

 

昨日、懐中電灯を点けたあとの

妙に白けた雰囲気を思い出し、

 

俺は一つの回答へ至った。

 

「みかっちさんが犯人なわけですね」

 

つまり、

 

みかっちさんは5回転目のスタートをして

時計回りにCoCoさんにタッチしたあと、

 

その場に留まらずに、

スタート地点まで壁伝いに戻ったのだ。

 

そこへ俺がやって来てタッチする。

 

みかっちさんはその後、

 

二人分時計回りに移動して

CoCoさんにタッチ。

 

そしてまた一人分戻って俺を待つ。

 

これを繰り返すことで、

 

みかっちさん以外の誰にも

ポケットがやって来ない。

 

延々と時計回りが続いてしまうのだ。

 

「キャー!」という悲鳴でも

上がらない限り。

 

せっかくのイタズラなのに、

 

いつまでも誰もおかしいことに

気づかないので、

 

自演をしたわけだ。

 

しかし、CoCoさんも京介さんも

昨日のあの感じでは、

 

どうやらみかっちさんのイタズラには

気がついていたようだ。

 

俺だけが気になって

変な夢まで見てしまった。

 

情けない。

 

朝飯時になって、

みかっちさんが目を覚ましたあと、

 

「ひどいですよ」

 

と言うと、

 

「えー、わたしそんなことしないって」

 

と白を切った。

 

「このロッジに出るっていう、

お化けが混ざったんじゃない?」

 

そんなことを笑いながら言うので、

そういうことにしておいてあげた。

 

後日、CoCoさんの彼氏に

この出来事を話した。

 

俺のオカルト道の師匠でもある変人だ。

 

「で、そのあと京介さんが

不思議なことを言うんですよ。

 

5人目は現れたんじゃなくて、

消えたのかも知れないって」

 

あのゲームを終えた時には4人しかいない。

 

4人で始めて5人に増えて、

また4人に戻ったのではなく、

 

最初から5人で始めて、

終えた瞬間に4人になったのではないか、

 

と言うのだ。

 

しかし、

 

俺たちは言うまでもなく

最初から4人だった。

 

なにをいまさらという感じだが、

京介さんはこう言うのだ。

 

「よく聞くだろう。

 

神隠しってやつには、

 

最初からいなかったことになる

パターンがある」

 

と。

 

(続く)四隅 4/4

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