巣くうもの 1/2
その時俺は地方大学の学生で、
同じ科の連中とグループでよく遊んでた。
たまに混ざる奴もいて、
男4~6人で女4人。
一人暮らしの奴の部屋で集まって飲んでると、
よく怪談したがる女の子がいた。
決まって嫌な顔する子(Aとする)も居て、
こっちの子が俺とかなり仲良かった。
怪談好きな方をBとするが、
Bも別に電波とかじゃなくて、
怪談も体験談はなくて、
それこそネットに転がってる面白い話を
仕込んできてんじゃないか、
みたいな怖い話をする子で、
本当は幽霊とか信じてなさそうだった。
むしろAの方が「見えるんだ」と言ってて、
AはいつもBを避けてる感じだった。
2人で遊ぶとかは絶対ないし、
グループでも距離を開けたがってる雰囲気で、
俺とあと一人、Aの「見える」を聞いて
信じてる奴(Cとする)は、
本当に霊感があったら遊びで怪談するなんて
嫌なのかもしれない、と思ってた。
ある日、Bと仲の良い男の一人が、
恐怖スポットの話を仕入れてきてた。
車で30分くらいで行ける場所にあるそうで、
Bも他の連中も面白がって、
その場で肝試しツアー決定。
来てない他の連中も呼び出そう
ってことになって、俺はAに電話した。
俺自身は行く気だったけど、
Aは来ないだろうな、と思い、
俺「これから、~~の辺りに
行くってことになったんだ。
ただ、肝試しだし、
他にも来ない奴いると思うし」
と言った。
そしたら、Aは遮るように、
「それって、何か大きな空き家のこと?
その辺りで肝試しって」
俺「あ、そう。その家の裏に何かあるらしいから」
A「・・・よした方が良くない?ってか、やめなよ。
誰かの家で飲んで怪談したらいいじゃん、
わざわざ行かなくても」
よりによってAに怪談話を進められて
少し驚いたが、
仲間たちは既にノリノリで準備中。
俺「いや・・・みんな行く気だし。
Aは気が進まないなら、
今回は外していいと思うけど」
するとAは少し黙って、
A「・・・Bは行くの?」
俺「行くよ。一番、やる気満々だし」
A「・・・そうなんだ・・・じゃ、
私も行くから、ちょっと待ってて」
たまげたことに、Aは本当に来て、
Bと一緒に車に乗った。
結局来れない奴も居て、
総勢6人で、
一台(ワゴン)に乗って出発した。
Bは少しKYなとこがあって、
Aに距離置かれてるのも
あんまり解ってないっぽく、
車中で初めは面白そうにお喋りし続けてたが、
すぐに欠伸をし始めた。
B「バイトとかで疲れてんのかなー。眠い~」
眠そうに呟くBに、Aが、
「寝てなよ。着いたら起こしたげる」
B「ありがと。ごめん、少しだけ寝る」
Bは運転してる奴に断ってうとうとし始め、
Aは黙って窓の外を見てた。
で、着いたときもBは起きなくて、
もはや完全に熟睡。てか爆睡。
「寝かしとく?」って、
俺らが顔を見合わせたらAが、
A「連れてくね。後で怒るよ、置いてったら」
ってBを担ぎ起こして、
強引に車から出したんだよ。
仕方ないからCが背負ってやったんだけど、
AはBの手を掴んでて、
他の車の奴らが降りてきたら、
一番先頭に立って歩いてった。
そこにあった古い家は普通に不気味な空き家で、
皆は結構盛り上がって「うわー」とか言ってた。
Bは起きないまま。
AはBの手を掴んだまま。
いよいよ本番で、家の後ろに回ったら、
何かぽつんと古井戸みたいなもんがあった。
近寄って覗いて見ると乾いた井戸の中に、
ちっちゃな和式の人形の家みたいなもんが見えた。
「何だー?」って一人が身を乗り出したのと、
Aが「さがってっ!」て叫んだのが同時だった。
覗いた奴がびびって身体ひっこめた
そのすぐ後に、
『カシャ・・・』だか『ズシャ・・・』だか、
何か金属っぽいような小さな音がした。
A「下がって!下がって!こっち来てっ!」
Aが喚き出すまでもなく、もう何か、
すごい嫌な感じが一杯だった。
カシャカシャ、ガシャズシャ、
て変なジャリジャリした音が、
しかもどんどん増えながら来るんだよ。
その訳解らん井戸の中から、
こっちに向かって。
もう逃げたいのに身体が動かなくて、
横見たらやっぱり仲間がへたってるし、
音は近づいてきて、姿は見えないけど
絶対に何か居たと思う。
A「俺君、もっとこっち来て!!!!」
Aが怒鳴りながら俺の手を掴んで、
何かを掴ませた。
俺が掴んだのを見たAは、
今度は少し横でヘタってる奴を
必死で引っ張って、
また何かを掴ませてる。
よく見たら、俺が掴んでるのはBの右足。
さっきの奴が掴んだのはBの左手。
Bの右手はAが掴んでる。
Cは相変わらずBをおぶってる。
AはBから手を離さずに、
必死に他の仲間を引っ張り寄せてた。
その後のことは、色々とよく解らなかった。
ただハッキリ覚えてるのは、
気がついたら目の前に何かがいたこと。
白いんだかグレーなんだか透明なんだか、
煙なんだか人影なんだか、
何か良く解らない「何か」が俺らの前に居た。
ちょうどその辺りから、
ガシャガシャガシャガシャガシャ、
ズシャズシャズシャズシャズシャ、
みたいな金属音が耳一杯に響いてきてた。
いや、こう書くとその煙みたいなもんが
金属音立ててたみたいだけど、そうじゃなかった。
俺らは「煙か人影みたいなもん」の背中を見てて、
それが「見えない金属音の奴」とぶつかり合って
止めてるんだって、そういう光景だった。
A「俺君、C君、動ける?逃げよ!!
早く逃げようよ!」
Aが叫んで、
俺らは必死で身体を動かして車へ向かって、
何とか乗り込んで逃げ出した。
Cがハンドルを握る車の中で
俺が振り返ったとき、
もう何も見えなかったけど、
金属音だけは結構長いこと耳に残ってた。
その後、結局帰り着くまで熟睡こいてたBに
「何も出なかったから起こさなかった」と、
説明して帰らせた後、皆で震えながら
明け方まで飲んだ。
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