ある野良猫たちとの不思議な日常
これはもうだいぶ昔のことになるが、ある野良猫たちとの不思議な日常話。
俺には何のスキルも無かったが、家を出たかったので寮のある新聞屋に就職した。
その寮は、アパートの一室を借りている所だった。
大家さんがすぐ傍に住んでおり、また猫好きな人だったらしく、周辺には餌付けをされている野良猫が沢山いた。
俺も猫が好きだったので、入居の挨拶の時に「猫が沢山で良いですね」と話したところ、「どれでも好きな子の面倒みてやって」と言われ、早速その日から餌付けを始めた。
そこそこ猫たちと仲良くなってから目をつけたのは、白地に灰色のぶちのある、子猫と成猫の間くらいの子。
ある冬の日、その子を勝手にうちの子にすることにして、餌で釣って部屋の中に入れた。
最初は戸惑っていたがコタツの暖かさに安心したのか、丸くなってぐっすりと眠り出した。
夜中過ぎ、朝の配達へ行こうかと支度をしていると、「トントン、トントン」とドアを叩く音がする。
何だろう?と開けてみたら、そこにいたのは近所中の猫たち。
10匹以上はいたと思う。
最前には、そこら辺のボスと思われていた太い雄猫。
その雄猫が、一生懸命に俺の顔を見ながら「ニャーニャー」と鳴いている。
何となく、勝手に家に引き込んだ子を取り戻しに来たんだな、とわかった。
俺はすぐに、寝ているその子をコタツから抱き上げて、「ごめんな」と言いながら皆の前に戻した。
そして戻した途端、三々五々といった感じで猫たちは帰って行った。※三々五々(さんさんごご)=少数のまとまり
面白かったのは、その後だ。
居心地が悪くなかったのか、俺が返した猫は次の日に戻って来た。
窓をカリカリと引っ掻く音がするので開けたら、あの子がスルリと入って来た。
以来、他の猫たちが取り戻しに来ることもなく、ボスに至っては程よい距離でたまに窓から見に来るくらいになった。
外にも出られるようにと窓をいつも少し開けていたが、普段は他の猫たちが勝手に部屋に入って来ることもなかった。
ただ、少し具合が悪くなった子がいると、うちに連れられて入って来ていたが。
そんな、もう旅立ってしまったその子と野良猫たちとの不思議な思い出。
(終)