クヌギの木の下で安らかに眠る愛犬
これは、ある犬とその飼い主にまつわる不思議な話。
私は小さい頃に『コンタ』という名前の犬を飼っていた。
コンタは人懐っこい犬だったけれど、私が小学5年生の夏に交通事故に遭い、突然この世からいなくなってしまった。
大泣きながら私は父と山に登り、クヌギの木の下にコンタを埋葬した。
やがて大人になった私は、山仕事をするようになった。
ある年、山にヒノキを植えることになり、地拵(じごしら)えのために火を入れた。
風向きを見ながら火を放ち、燃え広がらないように消火して回る。
途中、一箇所だけ焼け残っている場所があるのに気付いた。
それは大きなクヌギの切り株の周辺。
ちょうど、コンタを埋めた場所だった。
よく見ると、切り株から新芽が生えている。
「これはコンタの生まれ変わりだ!」
純粋にそう思った。
だから私は周囲にヒノキを植えず、クヌギが育つままにしておいた。
10年経った今ではグンと伸びて、山仕事をする私を見下ろしている。
なんとなく見守られているような気がして、まんざらでもない気分だ。
(終)
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