猫のミャーさんと俺の誕生
あなたは『猫が一生に一度だけ人の言葉を話す』という噂をご存知でしょうか?
これは、俺が生まれた頃の話。
当時、うちでは猫を二匹飼っていた。
その事を知った最近、親父に「こうこうなんだけど、ミャーさんは喋った事ある?」と聞いてみた。
ミャーさんとは猫の名前だ。
そしたら、「一回だけある」と親父。
お前が生まれたからミャーさんは・・・
ミャーさんは保健所に連れて行かれそうになったところを、母が「引き取り手を捜してみる」と言って引き取った。
しかしミャーさんは母に懐き、結局はうちで飼う事にした。
そうして一緒に過ごすうちに、元々は猫嫌いだった父にも懐いた。
父もミャーさんを段々と好きになっていったようで、今ではすっかり猫好きに。
父曰く、ミャーさんは賢い猫で、外に出ても必ず家に帰ってくる猫だった。
そうして暮らすうち、俺が生まれた。
病院から赤子の俺が家に初めて来た時、ちょうどミャーさんも外から帰って来た。
母が「私たちの子供だよ~」と言ってミャーさんに俺を見せると、ミャーさんは俺の匂いを少し嗅いだ後、にゃーと鳴いたそうな。
そしていつも外へ行く時に使う窓の前に行き、にゃーにゃーと『開けて』の合図を送ったという。
いつもは一回帰って来たらもう出ないのに?と思いながらも、父は窓を開けてあげた。
でもミャーさんは外には行かず、にゃーにゃーと鳴き続けるだけだった。
どうしたん?と父が顔を近づけた時、ミャーさんは人の言葉を喋った。
「ありがとう」と。
えっ?と父が驚いている間に、ミャーさんは外に出ていった。
そして、それきり二度と帰って来なかった。
その「ありがとう」は父しか聞いていないらしく、その場にいた母は「普通に鳴いて出ていった」と今も言っている。
人の言葉を喋ったから出て行ったのかは分からないが、親父は「お前が生まれたからミャーさんは自分の居場所がなくなったと思って出て行った」と笑いながら言っていた。
冗談でも酷いよ親父・・・。
(終)