トイレで遭遇した巨大なクモと私

クモ

 

これは、過去に勤務していた会社のトイレでの話。

 

便器の中の水が溜まっているところに『巨大なクモ』が落ちてしまったらしく、必死にもがいていた。

 

私はクモが大嫌いなので、そのまま大の水流で流してやろうかと思った。

 

けれど、あまりにも大きいので祟られるかもと思い、トイレットペーパーを垂らして水の中から助けてあげた。

 

その代わりに、「私の前にもう現れないで!」と念じて息を吹きかけると、たちまち隅の方へ姿を消してしまった。

 

その後、その職場に5年くらい在籍したけれど、それっきりあの巨大なクモを見かけることはなく、すっかり忘れていた程だった。

 

ところが、会社を退職するまさに最後の日、個室トイレの隅に彼が現れた。

 

「あの時はどうも」

 

「いえいえ。約束を守ってくれてありがとう」

 

「お元気で」

 

そんな会話が成立していたようなひと時だった。

 

(終)

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