病気を持っていた子猫の太郎

子猫

 

最近、ペットショップの『悪い噂』が流れているのを耳にしたことがある方もいらっしゃるかも知れません。

 

私は去年、そんなペットショップで念願のアメリカンショートヘアの子猫を購入しました。

 

悪い噂にあるような、病気や障害なんて無さそうに見えました。

 

その子猫は男の子で、名前は『太郎』と名付けました。

 

本当に元気で可愛い賢い子でした。

 

最初からトイレの場所を覚え、一度もトイレ以外の場所では用を足したりしませんでした。

 

甘えん坊で、寂しがり屋で、間抜けなところもある、家族に笑顔をくれる子でした。

 

変だと思われるかも知れませんが、「太郎は私の子供だよ~」、「お母さんだよ~」、「大好きだよ~」と、話しかけていました。

 

家に来て3日ほど経った頃、太郎に異変が現れました。

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悪い噂は本当だったのか・・・

異常なくらい下痢を繰り返したのです。

 

病院へ連れて行くと、「猫パルボウイルス感染症」と「エキノコックス症」、それに眼も病気だと診断されました。

 

潜伏期間から考えてペットショップでの感染だろう、と。

 

子猫だから命が危ない、と。

 

私は悪い噂を思い出しました。

 

そんな所から太郎を早く連れ出せて良かったという思いと、腹立たしさや助けないとという思いがグチャグチャでした。

 

入院は拒否され、以後の診察も拒否され、ようやく診てくださる病院を見つけて通いました。

 

しかしそこは小さな病院で、本当は太郎が持つ病気を見てくれるはずのない病院でした。

 

それでも他が無い為に、「一緒に頑張りましょう」と言ってくださった本当に優しい先生だったのです。

 

下痢をする度にトイレを熱湯消毒して、薬を飲ませて、目薬を差して・・・。

 

仕事中は逐一家族に連絡を取り、様子を聞きました。

 

早く家に帰りたくて仕方ありませんでした。

 

そんな体調の悪い中でも、習性だからか、ちゃんと寝床からトイレに行って用を足す姿に元気づけられました。

 

しかし体調は良くならず、悪化する一方。

 

下痢は血便になり、視点も定まらなくなり、ご飯どころか水も飲めなくなってきました。

 

見ていて痛々しい以外の何物でもありません。

 

その頃はほぼ家族で寝ずの看病でした。

 

仕事が休みの日、ちょうど病院の先生から「やま」だと言われた日でした。

 

もう呼びかけても耳も聞こえない様子。

 

それでも、ふらふらとトイレに行き、トイレの前で酷い量の血便をしました。

 

止まらない・・・。

 

もう、便というより血でした。

 

拭いても拭いても止まらなくて、私は泣きながら看病をしていました。

 

呼吸もし難そうで、脱水症状も酷く、口を湿らせようと水を付けたティッシュで舌を濡らしてあげたり。

 

思い付く限りの事を全てしました。

 

早朝の事で、病院はまだ開いていませんでした。

 

ここから回復に向かうかも知れないと、それだけを願って・・・。

 

しかし、苦しそうな呼吸は段々と静かになっていき、やがて亡くなりました。

 

「太郎が息しなくなっちゃった!心臓が動かないよ!!」

 

私は気が狂いそうなほどに泣き喚きました。

 

「太郎はずっと私の子供だからね・・・」と話しかけながら、家族に促されて体を綺麗にしてあげました。

 

夏で湿度も高かったので、綺麗な姿のうちに焼いてあげようと、家族と相談して亡くなったその日のお昼に火葬をお願いしました。

 

その日は一日中、泣いていました。

 

泣いたりぼーっとしたりしている時、不思議なのですが、手に子猫がすり寄る感触が度々ありました。

 

過度なストレスから来るものだったのかも知れないですが、泣きながらその気配を撫で続けました。

 

泣き疲れて眠った夜、夢を見ました。

 

綺麗な土手に沢山の子供たちが集まっていました。

 

柔らかな光に包まれ、風景は薄っすら白くて。

 

その子供たちは見覚えのない子達でした。

 

夢の中の私は、悲しい出来事をなぜかすっかり忘れていて、太郎の事も忘れていて、子供たちをにこにこと眺めていました。

 

昔、児童保育の仕事をしていたことがあるので、なんとなく児童保育の仕事中のような気分だったように思います。

 

その内の一人の男の子が駆け寄ってきて、私の右手を取り、「僕のこと好き?」と訊いてきます。

 

私は誰か分からなかったのですが、男の子の笑顔を見ながら「好きだよ」と返しました。

 

男の子は、私がその子のことが分かっていないことを理解しているのか、じっと悲しそうに寂しそうにこちらを見つめてきましたが、「僕ね、○○先生(私)のこと大好きだよ!」。

 

そう笑顔で言うと、「じゃあ、行くね!バイバイ!」と手を振りながら、土手の上にいる子供たちの方へ走っていきました。

 

子供たちの中心には、背の高い黒い影が見えました。

 

それは優しい雰囲気がして、「ああ、あの人に引率されて子供たちは土手の向こうの橋を渡ってどこかに行くんだな」と、ぼんやり思いました。

 

笑顔で男の子に手を振って見送ったところで目が覚めました。

 

その瞬間、さっきの子供が太郎だと気付きました。

 

太郎は男の子でした。

 

太郎と同じく片方の眉毛が一本だけ異様に長かった男の子。

 

ちょっと目つきが悪くて、おでこが眉毛辺りから盛り上がっていたあの子。

 

どうして太郎だと気付かなかったのだろうか。

 

どうして「太郎の事が好きだよ」と言えなかったのか。

 

でも、あの時の男の子の様子から、私は忘れているものだったのか。

 

寝る直前まで感じていた太郎の気配は、起きたら全く無くなっていました。

 

気のせいかも知れないですが・・・。

 

(終)

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One Response to “病気を持っていた子猫の太郎”

  1. 通りすがりの名無し より:

    そのペットショップ、通報したほうがいいのでは・・・。
    ちょっと泣きそうになった・・・。

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