降り続けて止まらないエレベーター
私が働いているビルは、
地上12階地下2階建て。
持ち場は地下1階。
その日は仕事が多くて
3時間残業。
タイムレコーダーを押した後、
エレベーターで12階まで上がり、
社食横の喫茶コーナーにて
珈琲を飲み寛ぐ。
かなり疲れがたまっていたのだと思う。
ソファーでうたた寝してしまった。
起きたときはもう午後9時近く、
早く帰らなきゃ。
下りのエレベーターに乗った後、
寝起きで、ぼーとしていたせいか、
1階のボタンを押し忘れた。
ハッ、と気付いたときは、
地下2階まで
エレベーターは降りていた・・・。
ところが、なぜか止らない。
地下2階まで降りた後も
エレベーターは止らず、
どんどん、どんどん
降り続けていくのです。
止らない・・・。
急に怖くなって、
1階のボタンを 慌てて押したのだけれど、
なぜか機械が反応しない。
まるでコントロール不能。
いったいどうなっているのか、
ほとんどパニック。
なぜエレベーターは、
止らないで降り続けていくのか。
もう500階分くらいは
降りる感覚が続いていた頃になって、
ふと我に返った。
そうだ。
緊急マイクで
警備に連絡が取れるはずだ。
備え付けの受話器を
手に取ろうとしたところで、
地震かと思うほど、
エレベーター全体が
ガタンと揺れて止った。
あまりに唐突で激しい揺れだったので、
尻もちをついてしまった。
そして、扉が音も無く開いた。
なぜかそこは、12階よりひとつ上の
屋上階の小ホールだった。
まるで狐につままれた気分で、
何が何だかわからない気持ち。
地下の底まで降りてきたつもりだったのに?
とにかく、真っ暗な屋上階に
1人で居るのは怖い。
再びエレベーターに乗るのも恐ろしい。
しょうがないから階段で1階まで降りていった。
階段は非常用なので、かなり辛い。
結局、単に私が寝ぼけていただけ
なのだろうと思って、
この話は誰にもしていない。
あの時の、わけのわからない恐怖は、
当分忘れることができない。
気味が悪いので、
1人でエレベーターに乗ることが
できなくなってしまいました。
(終)