その音はずっと聞こえていたのに
今年の春頃にあった話。
私は両親と実家住まいなのだが、ゴールデンウィーク中に父が屋根のペンキの塗り直しをやると言っていた。
私の部屋は2階で、2階は廊下を挟んで私の部屋と兄の部屋に分かれている。(兄は出て行ったので、その部屋は今は物置)
廊下をまっすぐ行くとベランダに通じるドアがあり、そこから私達は2階の屋根へと出入りしている。
実際にペンキ塗りをやったことのある人なら分かると思うが、ペンキを塗る前にまずサビなんかを金属ブラシで擦り落とす。
父は午前中からこの作業を始めると言い、私が「手伝おうか?」と尋ねると「まだいい」という返事があった。
屋根からいつ降りたの?
父のお呼びがいつかかるのか分からないし、なにより何か事故があったら怖いなと漠然と思っていたので、私は自室で本を読みながら呼び出しを待っていた。
金属ブラシでサビを擦る音というのはよく聞こえる。
『ガシャガシャ』という音だ。
この音が聞こえている間は作業中だし無事なんだろうと思っていたので、音にだけは注意していた。
午前中から始まり、昼頃まで父はずっと作業していた。
ガシャガシャという金属の擦れる音は、ずっとその間も絶えず聞こえていた。
しかし、いくら待っていてもなかなかお呼びがかからない。
作業している音は聞こえているし、思った以上に手間がかかっているのかもしれない。
そう思って、私は階下に降りた。
そろそろ昼食でも用意しようかと台所に立とうと思ったからだ。
1階へ降りて台所へ向かおうとすると、なんとそこに父が居た。
父も昼食の用意をしていたのだ。
私は混乱し、「いつ降りたの?」と聞いた。
すると、降りるも何も、父は1時間前にすでに休憩に入っていたらしい。
私が「え?じゃあ、ずっと屋根から聞こえていた音は?」と言えば、父は「幻聴だろ」と一刀両断し、午後から私にペンキ塗りを手伝わせた。
この話はこれで終わりだが、別件として自室の部屋のドアの建てつけが異様に悪く、勝手に開いたり閉じたまま容易に開かなくなることが度々ある。
しかし、父に確認してもらうと容易に開く。
なぜ勝手に開くのかは、父曰く「気圧の変化」だそうだ。
(終)