留守の新居を守った人形
これは、眠れぬ夜に思い出した昔の話です。
妹が結婚して新婚旅行へ旅立った後に、妹の新居の中庭で呻(うめ)いている女が救助された事件がありました。
その女、妹の亭主の同僚でした。
妹の旦那を好きだったとか付き合っていたというわけではなく、ただの独身女の妬みで、窓ガラスでも割ってやろうとしての侵入でした。
しかし、マンション1階のベランダに侵入したところ、月明かりに照らされた畳の上に『振り袖の日本人形』がポツンと立っており、恐怖のあまりベランダの柵の乗り越えに失敗して転落したそうです。
1階で命拾いしたから良かったものの・・・。
タネ明かしをすると、その日本人形は実在しています。
両親が私と妹が産まれた時に、それぞれに日本人形を買ってくれました。
妹はそれを新居に連れていき、まだ家具などが揃っていなかったので畳の上に置いていました。
ただ一つ不思議なのは、妹夫婦は用心のため、カーテンも雨戸も閉めておりました。
そのため、月明かりに照らされた日本人形を、侵入に失敗した女が見られるはずがないのです。
そもそも、日本人形が月明かりに照らされるはずもありません。
なんとなくその疑問に関しては、妹夫婦も他の家族も触れないようにしています。
(終)