近づいてくる写真の中の小さな男
これは、スマホで撮った写真にまつわる奇妙な話。
ある日の会社でのこと。
普段から俺のことを良くしてくれている釣り好きの上司は、年に1回ほど離島遠征に誘ってくれていた。
その日も、遠征から戻って会社で釣果を披露し、仲間内で「これは凄いな」等と話していた。
そして俺が撮った写真の中に、この遠征で一番大きなヒラマサを釣り上げた上司が得意気に写っていたものがあった。
上司にそれを見せると、「あれ?こんな人いたっけ?」と笑いながらぽつりと言った。
写真には、かなり遠くから『背の小さな男』がこちらを見ていた。
こんな近かったっけ?
その瀬には、俺たちの他にもう1組上がっていたのだが、みんな背が高い人ばかりだった覚えがあった。
しかし、写真に写っていた男は小さかった。
その場では何ということもなく、それだけの話で終わったのだが・・・。
それから1ヶ月後、昼休み中にふと思い出したようにその写真を見ていると、少しおかしなことに気がついた。
「あれ?小さな男、こんな近かったっけ?」
遠くにいたはずの男が、上司の10メートルくらい後ろに立っていた。
顔の表情もなんとなく分かりそうな距離になっている。
上司に見せると気持ち悪そうにしていたが、それ以上は何も言わなかった。
それからさらに1週間後、また思い出したようにその写真を見ていた。
しかし今度は、その写真を見て一気に血の気が引いていくのを感じた。
なぜなら、上司の真後ろにその男が立っているからだ。
顔もハッキリと確認できる。
男は上司を凝視している。
慌てた俺、すぐに上司に電話をかけた。
しかし、その日も釣りに出かけているとのこと。
携帯も繋がらず、天気が悪いのもとても嫌な予感がした。
そんな嫌な予感を感じながらも連絡がつかないので、その日は報告せず寝てしまった。
翌日、上司は帰って来ていた。
しかも、俺の家に魚を大量に持って来た。
俺は慌てて写真のことを話し、それを見せた。
すると上司は大して怖がりもせず、こう言った。
「ああ・・・あいつか」
今度は少し嬉しそうな表情を見せた。
怖がらない上司を不信に思い、どうして気にしないのかを問い詰めたが、鼻歌を歌うばかりで相手にしてくれない。
結局、本人が気にしないのならいいかと思った俺は、それ以上は余計な詮索はしなかった。
ただ、翌週その写真を見ると、小さな男はいなくなっていた。
(終)