病棟の片隅に隠すようにある公衆電話の怪
これは、以前に勤務していた病院での話。
そこは田舎の結構古い病院で、ある階の病棟の隅には『公衆電話』が置いてある。
小銭しか使えない、レトロなピンク色の小さな公衆電話。
隠すように置いてあり、私の記憶にある限り、使用している人は見たことがない。
それもそのはず、この公衆電話はコードは繋がっているが壊れていてかけることが出来ない。
さっさと修理に出すか捨てればいいものの、何故かずっと手をつけられないでいた。
そんな公衆電話だが、鳴ることがある。
月に1回あるかないか程度だが、決まって深夜帯に鳴っている。
私も夜勤中に鳴っているのを聞いたことがある。
時間まで計ったことはないが、大体10秒くらい鳴り響いていたと思う。
静寂な病棟に突然レトロな公衆電話のベルが鳴り響くのは結構不気味だ。
ただ、この公衆電話が鳴っても絶対に出てはいけない。
“暗黙の了解”というものなのか、そんな雰囲気がある。
他の職員は気にも留めないようなので、私も特に気にしなかった。
そんなある夜、ある人が受話器を取った。
勤務の月日がまだ浅い新人で、初めてその公衆電話が鳴る時に居合わせたのだ。
明るい性格の新人は、同僚の制止を聞かずに意気揚々と受話器を取った。
同僚の話によると、新人は何も言わず少しのあいだ黙った後、受話器を戻した。
どこか怯えているように見えたが、新人は電話について何も話さなかった。
その後、新人は以前とは別人のように暗くなった。
そして風邪を理由に休むようになり、事から1ヶ月程で退職した。
退職後については何も知らない。
(終)