姉が上機嫌で持ってきた不思議な本
これは、姉が不可解な言動をした時の話。
姉は弟である俺に甘く、ややブラザーコンプレックスである。
姉が社会人になって1年程が経ったある日、上機嫌で俺の部屋を訪ねてきた。
手には古びたハードカバーの本を持っていて、「やっと見つけた」と一言だけ言うと、その本を俺に手渡した。
その本は不思議な本で、最初の方のページの紙はやたらと古く、後からカバーに無理やり挟み込んだ感じだった。
中身の方も不思議で、かなり白紙のページがあり、所々に様々な国の文字で文章らしきものが書かれていた。
後ろの方のページには平仮名で書かれたページも多数あったが、とりあえず文字を並べただけのような感じで書かれており、内容は全然わからなかった。
一通り目を通してから姉に本を返し、「何、この本?」と聞いてみても、「気にしなくていいよ」と言うだけで特に説明はしてくれなかった。
そして、後ろの方の白紙のページに筆ペンで何かを書き込み始めた。
その時に俺は、その光景に強烈なデジャヴを覚えた。
姉によく似た姉ではない誰かが同じようなことをしていた光景が、その姿に重なったような。
着物やドレスだったり、布みたいなものを纏(まと)っていたり。
いくつかの同じような記憶が、目の前の光景と無理やり重ねられたような妙な感覚は今でも鮮明に覚えている。
姉は何かを書き終えると、そのまま本を持って自分の部屋に戻ってしまった。
その後は今まで通りに優しい姉で、あの時のような妙な行動をとることもない。
ただ、あの時のことを聞くと、はぐらかされて細かいことは教えてくれない。
結局、あの時の姉の行動は何だったのか、未だにわからない。
(終)