樹海散策中に撮った写真
あれはどのくらい前になるだろうか。
多分、もう十年も前になるか・・・。
私は、当時1つ下の職場の後輩と共に、
キャンプに出掛けていた。
場所は、言わずと知れた樹海のほとり、
有名になる前の上九一色村だった。
キャンプ自体は、何の問題もなかった。
面白おかしく2日間を楽しんだ。
おかしな物音も、
妙な人影も見なかった。
もとより、ハナから信じてなど
いなかったが。
2日目、風穴やら氷穴やら、
ぶらぶら観光らしきことをしながら
帰ろうじゃないかということに。
ついでながら、
樹海散策といこうということで、
風穴横の入り口から行ける小道に、
ほんの軽い気持ちで入り込んだ。
話に聞いていたように、
思い留めるための看板群などを
見ながら、ぶらぶら歩いた。
写真を撮ったりして楽しんだ後、
元来た道を引き返し、元の風穴に戻った。
もちろん、散策道から外れて
樹海に分け入るようなことはしていない。
問題は、2日後に起こった。
夜になって、一緒に行った後輩が、
アパートの部屋に飛び込んできた。
紙のように真っ青な顔で、
驚いたことに頭をはじめ、
あちこち包帯だらけであった。
「まずいですよ、まずいですよ、
変な写真撮れちゃいましたよ」
問題の写真は、なぜか、
同一アングルのものが3枚あった。
樹海散策の記念にと、
散策路を撮ったものだった。
消失点をアングル中央に持つ
遠近法で撮られたもので、
1枚目、2枚目は全く同じで露出も適正。
3枚目だけが、同じアングルながら、
明らかな露出不足で全体的に暗い。
この3枚目が、まさに問題の写真だった。
「右側の手前の木の陰なんですけどね」
彼から写真を受け取った私は、
蛍光灯の真下で、穴の開くほど凝視した。
なんでもない失敗写真にしか見えない。
(木の陰、木の陰・・・)
「!」
いる!
木の陰だ!
おぼろげながらしゃがんだ、
男の半身が見える。
明らかに人であることが
分かった瞬間、
冷水でもかぶったように、
全身に鳥肌が立った。
なんだか足元が、ぐらぐらする。
いったん形が分かると、
細かいところまで見えてくる。
背中に文字が書かれた
シャツを着てること、
やや左向き加減であること、
髪が短いこと、
うなじ辺りの髪の生え際や、
耳の形まで、よく分かる。
「どうですか?」
どうですかと言われても、
あまりに明らかなため、
「う」とか「ぐ」としか声が出ない。
「実は・・・」
彼は、おずおずと切り出した。
事故だと言った。
いつもの通り道、
カーブで何回転か横転してしまうような
事故を起こしてしまったという。
あちこちの包帯は、
そのせいだったのだ。
幸い、通行人がいなかったのと、
シートベルトをしていたおかげで、
本人のみ数箇所の裂傷という事で済んだ。
が、妙な男が写った写真のこともあり、
気持ち悪いったらない。
その後、彼は会社を辞め、
故郷に帰って行った。
事故との因果関係は、
未だに分からない。
それ以降、
彼がどうなったのかも不明。
以来、写真は何の解決も得られぬまま、
忘れ去られることになった。
それがたまたま今日、
部屋の片づけで思いがけず
日の目を見ることになったのである。
写真の謎は、依然不明のままです。
(終)