おばあちゃんからのSOS
これは、私が小学校を卒業して中学入学を控えた3月頃の話です。
当時、父方の祖母が近所のアパートに住んでいました。
母の体が弱かったので、私の面倒を見るため祖母が毎日アパートから通う、そんな日々が幼稚園の頃からずっと続いていました。
しかし、私は祖母の住んでいたアパートには一度も行った事がありませんでした。
「近所に変な人が住んでるから」と母から聞かされていたからです。
小学生だった私にはあまり理解できませんでしたが、おそらく小児性愛者の類だったのだろうと今では解釈しています。
一度だけ友達を連れて近くまで行った事がありましたが、母にこっぴどく叱られたので、おそらく間違ってはいないと思います。
虫の知らせ
ある日、階下に下りると、いつもそこにいるはずの祖母がいませんでした。
「おばあちゃんは?」と両親に聞くと、「今日はまだ来てないよ」との事。
その瞬間、見知らぬアパートらしき玄関に自分が立っていました。
立っていたというより、玄関の風景が見えたという感じでした。
そして、目の前にはうつ伏せに倒れた祖母がいました。
私は瞬間的に叫びました。
「おばあちゃんが倒れてる!玄関で倒れてるから早く行ってあげて!」と。
しかし両親は半ば呆れながら、「まだ来てないだけだから」、「そういえばもう夕方だから今日は来ないのかもしれないよ」と言う。
そんな事はない!
今行かないとおばあちゃんが死んじゃう!
何故だか確信がありました。
「行ってあげて!おばあちゃんを迎えに行ってあげて!玄関で倒れてるんだから!早く!」。
何故こんなに必死になっているのか自分でも理解できないほど、泣き叫びながら両親に訴えました。
母は困った顔で、「行っておばあちゃんを連れてくれば気が済むんだから、ちょっと行ってきてあげてよ」と父に言いました。
父も母に言われたから渋々・・・という感じで自転車で出掛けました。
しばらくして、父が顔色を変えて帰ってきました。
「ばあさんが倒れてた!救急車呼んだ!今からまた病院行ってくるから用意しろ!」と。
よかった。
間に合った!
本当に倒れていた事に自分ながら驚きましたが、『間に合った』という気持ちの方が強かったです。
そして、父が変な顔で私を見ていました。
私の言った通り、祖母は玄関でうつ伏せになって倒れていたそうです。
なぜ私が分かったのか不思議だったのでしょう。
私にも分かりません。
祖母は脳溢血で倒れたそうで、もう少し発見が遅かったら危なかったとの事でした。
その後は意識も戻り、私が高校3年の秋に亡くなりました。
母の話によると、祖母は来る時もあれば来ない時もあり、祖母が倒れたあの日も大して心配はしていなかったそうです。
当時、なんで二人はこんなに落ち着いているんだろう、おばあちゃんが来ていないのに、と両親に対して少々イラつきながら泣き叫んだ私ですが、話を聞いて納得しました。
でも、私の記憶では祖母は毎日来ていたのです。
学校に行っていたので気づいていなかっただけなのかもしれませんが、私の記憶の中では『あの日』だけおばあちゃんがうちに来なかったのです。
ちなみに、祖母の容態が急変した時は父が気づきました。
お墓参りついでの家族旅行に出掛けていた時でした。
「胸騒ぎがする」と、朝食も食べずに父が先に帰りました。
家に着いた瞬間に病院からの電話が鳴ったそうです。
「あの時はおまえがばあさんのメッセージを受け取ったけど、今回は俺だったな」と、誇らしげにしていた父が印象的でした。
ほどなくして祖母は亡くなりました。
89歳の大往生でした。
子供だったからこそ、あそこまでダイレクトに虫の知らせが来たんだと思います。
今だったら絶対に何にも感じない・・・。
(終)