その人がいる空間だけ闇に包まれていた
これは、私の母の実体験です。
就職したての頃に、会社の飲み会に参加した時のことでした。
お酌をして回っていると、参加していた同僚の松本さん(仮名)の周りの空間が、なぜか暗かったそうです。
照明の故障とかではなく、松本さんのいる空間だけが闇に包まれている感じで、松本さんは食事もせず、正座をしたまま俯いていました。
松本さんの体調が悪いのかと思い、周りの上司に声をかけて様子を見てもらったそうです。
ですが、母以外の人たちは皆、松本さんは普通に食事をしているし、松本さんの周りも暗くなんかないと言ったそうです。
その後、松本さんは飲み会を早退してしまい、母はやっぱり松本さんは具合が悪かったのだろうと思ったそうです。
しかし他の同僚に聞いたところ、松本さんのお母さんは有名な登山家で、翌日から週末を利用して一緒に登山に行くとのことで、体調管理などの為に早退しただけだったとわかりました。
母は、松本さんの異変はやっぱり自分の見間違いだったんだと、その時は思ったそうです。
ところが週明けに出社すると、松本さんの席には花瓶に入った花が飾られていて、松本さんは登山中に“滑落死した”と同僚から聞かされたそうです。
もしかして、飲み会の最中に松本さんの姿がおかしく見えたのは虫の知らせだったのかもしれない、と言っていました。
(終)